クック諸島総選挙、中国と西側の綱引きの舞台に
南太平洋に浮かぶ島国クック諸島で、現地の8月12日(水)に総選挙の投票が行われる。国会議員24議席を選ぶだけの選挙だが、中国と、ニュージーランドや米国など従来からの西側パートナーとの間で強まる競争の縮図として、国際的な注目を集めている。投票結果はこの記事の執筆時点では判明していない。
何が起きたのか
クック諸島議会は現地の6月25日に解散し、その後継を選ぶ選挙が現地の8月12日に行われる。同国は24の小選挙区制を採用しており、政権獲得には過半数の13議席が必要となる。現地紙Cook Islands Newsを引用したAsia Pacific Reportによれば、24議席に63人が立候補し、うち約5分の1が無所属だという。無所属のアグネス・アームストロング氏はイビルア選挙区で対立候補がおらず、投票前に当選が確定している。
マーク・ブラウン首相率いる与党クック諸島党(Cook Islands Party)は、前回2022年の選挙で12議席を得て第一党となっており、20人を擁立して5期連続の政権維持を狙う。野党側では民主党(Democratic Party)が12人、クック諸島統一党(Cook Islands United Party)が14人を立てるほか、プログレッシブ党や新設の独立党(Independence Party)なども名乗りを上げ、前回より候補者の顔ぶれが分散している。ベテランの元政治家ノーマン・ジョージ氏は、既存政党の求心力が弱まり、無所属候補が支持を集めやすくなっているという趣旨の見方を示している。
選挙戦の背景には、ブラウン政権が2025年に中国と結んだ「包括的戦略パートナーシップ(Comprehensive Strategic Partnership)」を巡る混乱がある。この5年間の行動計画には、深海鉱物資源、水路測量、防災、文化交流などの分野での協力が盛り込まれている。ニュージーランド政府は、事前に十分な協議がなかったとして不満を示し、クック諸島国内の野党勢力も協定の透明性に疑問を呈した。ラロトンガでは数百人規模の抗議行動も起きた。ブラウン首相は密室での決定という指摘を否定し、国際協定は自国の利益のためだと説明している。
背景
クック諸島は自国の内政を自ら運営する一方、1965年以来ニュージーランドと「自由連合(free association)」と呼ばれる関係にある。防衛や外交の一部はニュージーランドが要請に応じて担い、クック諸島の人々はニュージーランド国籍を持つ。この特殊な関係があるため、クック諸島が独自に外交を広げる動きは、ニュージーランドとの摩擦を生みやすい構造になっている。
今回の対立の焦点の一つが、海底に眠る金属資源だ。クック諸島の海底鉱物当局の推計によれば、大陸棚には海底に転がる金属の塊(polymetallic nodules、日本ではマンガン団塊とも呼ばれる)が約67億トン存在し、そこにはコバルトが約2000万トン含まれるとされる。マンガンやニッケル、銅など、電池や先端製造、防衛技術に使われる資材も豊富とみられている。ただし商業的な採掘はまだ承認されていない。こうした資源への関心から、米国も今年2月、クック諸島と重要鉱物・レアアースに関する非拘束の協力枠組みを結んでおり、調査や探査などでの連携を掲げている。
英国の防衛・安全保障シンクタンクRUSI(Royal United Services Institute)は、中国とクック諸島の関係強化を、太平洋地域の地政学が大きく変わりつつある動きの一つと位置づけている。クック諸島の陸地面積は小さいが、排他的経済水域(EEZ)は約200万平方キロメートルに及び、この広大な海域とその資源が同国の戦略的重要性を高めているという。一方で、中国の国営メディア環球時報はこの選挙を、西側諸国が太平洋の島国を独立した外交主体としてではなく、大国間競争の舞台として扱っているとする批判の文脈で報じている。中国との関係強化を地域秩序の揺らぎと見るか、クック諸島自身の外交的自立の表れと見るか、評価は割れている。
日本にとっての意味
日本はPALM(太平洋・島サミット)という、太平洋島嶼国の首脳を招く定期的な会議を通じて、この地域との関係構築を進めてきた。クック諸島のように中国との関係を深める島嶼国が増えれば、日本の対太平洋外交にも影響が及ぶ可能性がある。
より具体的な接点は資源分野にある。コバルトやニッケル、マンガンは電池や先端製造に欠かせない金属で、供給網の分散は日本の産業界にとっても関心の高いテーマだという指摘がある。日本自身も南鳥島周辺の海域でレアアース泥などの海底資源開発を模索しており、深海鉱物の採掘ルールづくりや権益を巡る国際的な駆け引きは他人事ではない。今回の焦点となっている海底の金属資源は、国際海底機構(ISA)が管轄する、どの国の管轄権も及ばない深海底ではなく、クック諸島自身の大陸棚に位置する点が重要だ。つまり採掘の可否を決めるのはクック諸島政府であり、この国がどの国とどんな協定を結ぶかが、資源の行方を左右することになる。小さな島国の選挙結果が、遠く離れた資源需要国の思惑にもつながっている構図は、日本が今後この地域と向き合ううえで押さえておく価値がある。