スウェーデンの汚染工業跡地に結晶形のサウナ、公共公園計画の第一歩
ストックホルムを拠点とするアーティストデュオ、ビガート&ベリストローム(Bigert & Bergström)が、スウェーデン北部の町シェレフテオ(Skellefteå)の除染を終えた工業跡地に、ピンク色の巨大な結晶をかたどった常設サウナ「リチウム・クリスタル・サウナ(Lithium Crystal Sauna)」を完成させた。彫刻であると同時に、実際に入れるサウナでもある。
何が起きたのか
サウナが建つのは、ヴェステルボッテン県で最も汚染がひどいとされる工業用地のひとつ、シャリン(Scharin)工業跡地。パルプ製造が排出する有害な化学物質で1世紀以上にわたって汚染され、17年がかりの大規模な土壌浄化を経て、市民に開かれた公園に生まれ変わった場所だ。サウナは、この土地を公共空間に変えていく「ウェイストランド・クライメート・アクション・パーク(WasteLand Climate Action Park)」計画で初めて完成した常設の建造物となる。
外装は、真空槽の中でチタンを蒸発させてステンレスに定着させるという手法で作られたピンク色の鏡面パネルで、約280個の角柱を組み合わせた左右非対称の結晶の形をしている。設計はデジタルで行い、部材はCNC工作機械とレーザーで切り出した。建物全体が後ろに4度傾いていて、地面から結晶が生えてきたかのように見える。足元には地元産の松の心材を組んだ六角形のウッドデッキが広がり、鏡面の外壁には川と森、戻りつつある植生、そして産業によって形を変えられた風景が映り込む。
背景
名前の由来は、リチウムの結晶を巨大化した造形にある。制作したふたりは、リチウムが電池や電化、脱化石燃料の未来を象徴する鉱物である一方、その採掘が深刻な環境破壊を引き起こしうることに注目し、その矛盾こそがこの土地で問う意味のある主題だと考えた。土地の歴史を消すのではなく、その上に積み重ねるという発想だ。
中のヒーターも作品の一部になっている。蓄電池や電気自動車から供給される電力で動く特注の電池式ヒーターで、金属の籠に260キログラムのかんらん石を詰め、外側をノルマンディー海岸産の黒い燧石(フリント)で覆った。動力源は未来のものだが、形は人類最古の道具である250万年前の石器を参照しているという。内装はトウヒの骨組みに耐熱性の木材を貼った彫刻的な造形で、洞窟に入るような体験を意図している。人類が洞窟に身を寄せ、火を起こして暖を取った最初期の記憶につなげる狙いだ。ヒーターを囲むように手作りのハンノキ材のベンチが並び、最大12人が入れる。ガラスの扉の向こうにはシェレフテ川が見える。床には樹脂分が多く、薬品処理なしで湿気や腐食に耐える地元の松の心材が使われた。
ふたりはこの作品を、人が集まって身の回りの変化について語り合うための「社会的なアート作品」と位置づけ、眺める対象ではなく、会って、ひと息ついて、時間を共にする場所として使われることを望んでいる。
日本にとっての意味
汚染された工業跡地を除染して公共空間に作り替える取り組みは「ブラウンフィールド再生」と呼ばれ、日本にも、かつての鉱山や工場の跡地の活用に悩む自治体は少なくない。この事例が示すのは、除染を「終わらせる」だけでなく、土地の負の歴史そのものをアートと建築の主題に変えてしまうという発想だ。汚染の記憶を消さずに、人が集まる理由に変える手法は、国内の遊休地再生を考えるうえでも参考になり得る。
また、サウナという地域の社交場を公共空間再生の起点に据えるのは、いかにも北欧らしい選択だが、「温浴施設を核に人の流れを作る」という考え方自体は、温泉文化を持つ日本の地方にも通じるものがある。