マリで人質兵士82人解放、仏大使館員はスパイ罪で恩赦・国外退去
マリの軍事政権は現地時間13日、4月の襲撃事件以降、武装勢力に拘束されていた兵士82人が解放されたと発表した。また、スパイ容疑で有罪判決を受けていたフランス大使館の職員に恩赦を与え、国外退去を命じたことも明らかになった。旧宗主国フランスとの関係がぎくしゃくする中での2つの動きは、マリが抱える治安と外交の課題の複雑さを映し出している。
何が起きたのか
マリ軍によると、解放された82人の兵士は現地時間4月25日、主要空港を含む軍施設が狙われた一連の攻撃の際に拘束されていた。この攻撃では国防相が死亡している。犯行はアルカイダ系組織JNIM(イスラム・ムスリム支援団)と、トゥアレグ系勢力が率いる「アザワド解放戦線」(FLA)が認めていた。両組織は現地時間7月4日にも軍拠点への新たな攻撃を行ったと表明している。マリ軍は今回の解放について「綿密な計画」と関係者の調整の結果だとしている。
これとは別に、軍事政権トップのアシミ・ゴイタ氏は、スパイ容疑で禁錮20年の判決を受けていたフランス大使館の職員に恩赦を与えた。マリ政府は、恩赦は裁判所の認定を覆すものではないとしつつ、この職員を直ちに国外退去させると説明した。マリ当局は裁判は本人の防御権を尊重した形で行われたとしている。
背景
マリでは2012年以降、イスラム過激派による武装闘争が続いており、近年はJNIMが勢力を拡大しているとみられる。転機となったのは2020年と2021年のクーデターで、軍将校らが政権を掌握して以降、治安情勢は悪化した。軍事政権はその後、駐留していたフランス軍と国連の部隊を国外に追い出し、代わってロシアの軍事支援を受け入れる方針に転じた。サヘル地域では同様にブルキナファソやニジェールでも軍事政権がフランスと距離を置き、ロシアに接近する動きが相次いでいるとされる。今回、マリ政府がスパイ容疑で有罪となったフランス大使館の職員に恩赦を出しつつ国外退去を命じたのも、この一連の対仏強硬路線の延長線上にあるとみられる。旧宗主国であるフランスへの不信感と、軍事政権としての主権の誇示という2つの動機が重なっている可能性がある。
日本にとっての意味
兵士82人の解放とフランス大使館の職員の国外退去という今回の2つの出来事は、旧宗主国が軍事的にも外交的にもアフリカでの足場を失っていく過程を示す具体例として参考になる。フランスはこれまでサヘル地域で軍事プレゼンスと情報網を通じて強い影響力を持ってきたが、一連のクーデターと軍の撤退により、その足場は大きく崩れつつある。日本はアフリカ諸国とは資源やインフラ投資、開発協力を通じた関係を模索しているが、こうした地域では旧宗主国との関係の変化が政治・治安情勢そのものを左右し、進出企業や援助機関の活動環境にも影響しうる。マリのように治安当局がロシアなど新たなパートナーに軸足を移す国では、欧米中心だった従来の国際協力の枠組みが通用しにくくなっている可能性があり、日本が独自にどう関係を構築していくかを考える上でも、こうした動きを注視しておく価値がある。