NZオークランドに木造の『グラウンドスクレイパー』完成 家電大手2社の統合本社に
ニュージーランド・オークランドで、地元産のパイン材を斜め格子(ダイアグリッド)に組んだ骨組みを持つ大型オフィスビルが完成した。設計した地元の建築事務所RTAスタジオ(RTA Studio)によると、ニュージーランドで最大級のマスティンバー(大規模木造)建築の一つだという。家電ブランドのフィッシャー&パイケル(Fisher & Paykel)とハイアール・オーストラレーシア(Haier Australasia)が、オフィスと研究開発施設をひとつにまとめたグローバル本社として使う。英国のデザイン媒体Dezeenが2026年8月10日付で伝えた。
何が起きたのか
建物は再生された湿地の中に建つ、延べ約11,500平方メートル・3階建てのひとつながりの構成だ。曲線を描く外形が中央の湿地をぐるりと取り囲む。RTAスタジオ創業者のリチャード・ネイシュ(Richard Naish)氏はDezeenに対し、「私たちの答えは、守られた内側の景観の周りに巻き付けた、切れ目のないリボンのような仕事場だった」と説明し、「このループが外と内を生む。片側には守りを、もう片側には人を育む、自然と触れ合える環境をつくる」と述べた。そのうえで「高層ビル(スカイスクレイパー)がやることを全て、地面に寝かせた形でやる。だから私たちはグラウンドスクレイパーと呼んでいる」と付け加えた。
ループ状の形は文字どおり「外と内」を分ける。外側では前面からの騒音を遮り、中心では整備された湿地を抱え込み、オフィス空間を一周する大きな開口部からこの湿地を見渡せる。内部は3層吹き抜けのアトリウムやブリッジ、共用空間を軸に構成した。建物の片端には2フロア・約5,000平方メートルの研究・試験施設があり、天井の高い工場のような作業空間が広がる。研究側とオフィス側は、「調理し、食べ、集う」ための共用空間と位置づけられた中央のキッチンでつながる。木の骨組みは屋内でもそのまま見せており、共用部では黒い木の階段や柔らかな家具と対比させている。
骨組みには、RTAスタジオが過去のプロジェクトで開発した構造システムを、今回の規模と複雑な形状に合わせて改良したものを使った。「デジタル製造による部品キット」として開発され、幅8メートルのスパン2列で構成することで、日光と風が建物を通り抜ける。同スタジオによると、ダイアグリッドに使った木材の量は地元の植林地であればおよそ3時間で育つ量にあたり、構造体は建設時に排出された以上の炭素を貯蔵しているという。あわせて、フィッシャー&パイケル・ホームソリューションズが開発した太陽光パネル1,159枚が設置され、建物の年間の運用エネルギーを賄う見込みだ。
ネイシュ氏は「骨組みは外皮と同じくらい美しい。その役割は環境的であり、構造的であり、体験的でもある。炭素を蓄え、自国で培った工学の知見を生かし、温かく手触りのある職場をつくる」と語り、「これは部品のひとつひとつがはっきりと分節され、組み上がっていく建築だ」と述べている。
背景
フィッシャー&パイケルはニュージーランド発の家電ブランドで、中国の家電大手ハイアールの傘下にある。系列2社がオフィスと研究開発機能をひとつの拠点に集約する今回の計画は、グループ全体の効率化を狙ったものとみられる。ニュージーランドは植林による林業が盛んで、建築用の木材を国内で調達しやすい。木材を主要な構造材に使うマスティンバー建築は、鉄骨や鉄筋コンクリートに比べて建設時の二酸化炭素排出を抑えられるうえ、木材そのものが炭素を貯蔵し続けるため、気候対策の観点から世界各地でオフィスビルなどへの採用が広がっている。Dezeenは関連する動きとして、オーストラリア・シドニーで世界一高い木造タワーが上棟したことも伝えている。
日本にとっての意味
日本でも大規模建築の木造化は進みつつある。大林組は2022年3月、横浜市に高さ44メートル・11階建ての研修施設「Port Plus」を完成させた。柱・梁・床・壁の地上構造部材を全て木材とした日本初の高層純木造耐火建築物で、約2,000立方メートルの木材が約1,650トンの二酸化炭素を固定する。2021年10月に施行された改正木材利用促進法で、木材利用を促す対象は公共建築物から民間を含む建築物一般に広がった。日本の挑戦が都市の狭い敷地で「高く積む」方向に向かいがちなのに対し、今回のオークランドの本社は、広い敷地で「低く広げる」ことで大空間と自然環境の一体化を実現した対照的な実例であり、郊外型の研究開発拠点やキャンパスを計画するうえで参考になりうる。
企業の面でも日本と接点がある。本社を構える一社のハイアールは、日本では旧三洋電機の白物家電事業を引き継いだ「AQUA(アクア)」ブランドで洗濯機や冷蔵庫などを展開しており、今回の統合本社は、日本の消費者にも身近な家電グループの研究開発拠点という顔を持つことになる。