気候・災害

南アフリカ最高裁、シェルの沖合探査権を無効と確定判断

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南アフリカの最上位裁判所である憲法裁判所は、現地時間の8月14日、石油大手シェルと現地パートナー企業Impact Africaに与えられていた東海岸沖の石油・ガス探査権を無効とする判断を下した。地域住民との協議が不十分で、環境への影響も適切に検討されていなかったというのが理由で、5年にわたった法廷闘争に決着がついた。

何が起きたのか

争われていたのは、シェルとImpact Africaが2014年に南アフリカ政府から得ていた東海岸沖の石油・ガス探査権だった。環境NGOのSustaining the Wild Coast、Natural Justice、Greenpeace Africaなどが、この探査権の取得手続きで地域社会との協議が法律上の要件を満たしていないとして、シェルとImpact Africa、そして政府を相手に訴訟を起こしていた。憲法裁判所は、両社が資源開発の手続きを定めた法律を順守しておらず、実質的な住民協議も行わず、気候変動や地域の文化的権利、生活、生態系への影響を十分に検討していなかったと認定した。これにより、鉱物資源・石油省がこの探査権を認めた判断自体が違法だったとされ、2022年に地方裁判所が示していたシェル側敗訴の判断が確定した形になる。2024年には、シェル側が住民協議をやり直せば探査権を維持できるとする控訴審判断が出ていたが、今回の最高裁判断はこれを覆した。Greenpeace Africaで石油・ガス問題を担当するSherelee Odyar氏は、裁判所が探査権付与の過程にあった「重大な不備」を認めた上で、それは後から手続きをやり直して補えるものではないと確認したと述べた。シェル側は判断を受け止めたとした上で、「責任ある沖合探査、実質的な関係者との対話、環境保全に取り組んでいる」とのコメントを出した。

背景

南アフリカは2014年以降、「オペレーション・パキサ(Operation Phakisa、海洋資源の経済的な活用を進める政府の政策プログラム)」の下で沖合の石油・ガス開発を積極的に進めてきた。今回問題となったワイルドコースト(Wild Coast、南アフリカ東海岸に広がる生物多様性に富む地域)は、海と土地に依拠して暮らしてきた沿岸コミュニティが世代を超えて守ってきた場所とされる。南アフリカでは資源開発にあたり影響を受ける地域社会との協議が法律で義務づけられており、今回の訴訟はこの協議義務が実質的に果たされていたかどうかが争点だった。判決は、国際司法裁判所が昨年示した勧告的意見(advisory opinion、法的拘束力はないが各国の裁判所などに影響を与える見解)にも言及し、気候変動への対応は一国内にとどまらない国際法上の義務だと位置づけた。担当したコリャペン判事は、今回の訴訟が、沿岸コミュニティが土地や海洋資源、暮らしの手段を、自分たちの存在そのものを脅かすとみなす資源開発から守ろうとしてきた長年の闘いを背景に理解される必要があると記した。

日本にとっての意味

今回の判決で重要なのは、2014年に一度認められた探査権が、協議不備を理由に12年後の最上位裁判所の判断で無効になり、しかも「後から協議をやり直せば有効」という2024年の救済策までもが退けられた点だ。開発企業からすれば、地域社会との協議を軽視した権利取得は、事後的な手続き補完では取り戻せないという判例ができたことになる。日本の商社や電力会社は、資源獲得のため海外の石油・ガス開発案件に出資する形で関わることが一般的で、今回のような判断は、投資判断の際に環境・人権面のデューデリジェンスをどこまで丁寧に行うかという実務に影響しうるとみられる。南アフリカでは西海岸でもTotalEnergiesを相手取った別の訴訟が続いており、資源開発をめぐる法廷闘争は一件にとどまらない流れになりつつあるようだ。また、国際司法裁判所の気候変動をめぐる勧告的意見が、今回のように国内の司法判断で引用された点も見逃せない。今後、他国の裁判所でも同様の理屈が援用される可能性があり、日本企業が関わる海外の資源・インフラ案件でも、地域社会との協議や気候影響評価の水準が、これまで以上に法的リスクとして意識される場面が増えていくと考えられる。