オーストリアに鏡張りの天井持つ科学パビリオン完成
オーストリアの研究機関ISTA(Institute of Science and Technology Austria)のキャンパスで、来場者向け施設「VISTA Science Experience Centre」が完成した。設計はオランダの建築事務所Studio Maks、構造設計はエンジニアリング会社のBollinger + Grohmann。緩やかに波打つ天井の一面を数千枚の鏡のタイルが覆う、ガラス張りの円形パビリオンだ。英国のデザイン媒体Dezeenが2026年8月11日付で伝えた。
何が起きたのか
パビリオンはウィーン郊外にあるISTAキャンパス中心部の公園に建ち、受付と展示スペース、カフェを備えた一般向けのビジターセンターとして、ISTAの研究活動を紹介する役割を担う。円形の1階はほぼ全体が大きなカフェとショップにあてられ、床から天井まで届くガラスの壁をぐるりと巡らせた。ガラス面は、波打つ屋根の鏡張りの軒が日差しから守っている。
Studio Maks創業者のマリエケ・クムス(Marieke Kums)氏はDezeenに対し、「主眼は、科学技術研究所のビジターセンターを、入るための敷居がとことん低い場所として作ることだった。経歴や予備知識にかかわらず、誰もが歓迎されていると感じられる場所だ」と説明し、「同時に、好奇心と驚きを呼び起こし、来場者が開かれた親しみやすい形で科学に触れられる空間を作りたかった」と述べた。円形という形もその狙いに沿ったもので、同氏は「公園のレベルでは建物は円の形をとり、来場者はどの方向からも近づける。正面も背面もはっきり決まっていないため、パビリオンは風景の中の開かれた、人を迎え入れる目的地として立ち現れる」と語っている。
中央には円形の吹き抜け階段があり、地下階に光を引き込む。地下にはメインの展示エリアのほか、講堂、体験型の学びと実験のためのラボやワークショップスペースが並ぶ。建物の南端では、掘り込んだパティオと曲線を描く外階段が地下への屋外ルートになっており、ラボエリアに自然光を届ける役割も果たす。内装は白い壁と黒い天井を基調とするモノクロームでまとめ、淡いオーク材の家具で柔らかさを加えた。
背景
この建物で最も目を引くのは、1階の波打つ天井の下面全体に敷き詰められた数千枚の鏡のタイルだ。周囲の公園の緑や空の青を室内に映し込むよう設計されている。実はこの鏡張りは当初案ではない。クムス氏によると「屋根はもともと半透明の構造として設計していたが、パンデミックによる混乱でこの案は実現できなくなり、設計の見直しを迫られた」という。「そこで反射する天井を導入した。木造屋根の構造に大きな自由度をもたらしながら、意図していた空間の質を保ち、周囲の風景との関係をむしろ強めてくれた」と同氏は述べ、「公園と刻々と変わる光の条件を映すことで、天井は風景の空気を屋内へと引き込んでいる」と付け加えた。設計変更を逆手に取り、木造の屋根構造と鏡の天井を両立させた形だ。
日本にとっての意味
Studio Maksの仕事は、日本の建築界と地続きでもある。同スタジオの代表作のひとつであるオランダ・フリースラント州の公園「Park Vijversburg」のビジターセンター(今回と同様に曲面ガラスを使った施設)は、日本人建築家の石上純也氏の事務所との協働で設計された。石上氏は神奈川工科大学の「KAIT工房」などガラスと軽やかな構造を使った建築で国際的に知られており、今回のパビリオンの「風景に溶けるガラスの公共建築」という路線は、その系譜と響き合う。
「研究を市民にどう開くか」という点でも参考になる。日本では、文部科学省の科学技術週間(毎年4月)に合わせて全国の研究機関が施設の一般公開を行うなど、研究に触れる機会は年数日のイベント型が中心だ。カフェとショップを1階に置き、予備知識のない人がふらりと立ち寄れる常設の入り口を研究キャンパスの真ん中に作るという今回の発想は、日本の研究機関や科学館が「敷居の低さ」を建築のレベルでどう実現するかを考えるうえで、具体的な手がかりになる。