根ごと掘り出したトウヒ18本を柱に、ノルウェーの海辺コテージ完成
ノルウェー南西部ランダベルグ(Randaberg)の大西洋を望む岩場に、根を付けたまま掘り出したトウヒ(スプルース)の木を柱に使った木造コテージ「Cabin Sande」が完成した。設計は地元の建築スタジオHelen & Hard。根から幹へと枝分かれする木の形をそのまま生かした18本の柱が樹冠のように天井へ広がり、海のパノラマを縁取っている。英国のデザイン媒体Dezeenが2026年8月15日付で伝えた。
何が起きたのか
コテージは広さ112平方メートル。保護対象の岩の多い岬に建ち、敷地には1970年代のコテージが立っていた。建築規制により、建て替え後の建物は旧コテージの規模と高さに合わせることが求められたため、低く角張った建物を敷地で見つかった石を積んだ基壇の上に載せ、屋根は周囲の地形の起伏に沿った植栽屋根とした。
骨組みの中心は、根の部分まで含めた丸ごとのトウヒから作った18本の枝分かれする柱だ。それぞれの木は根を無傷のまま掘り出したうえで、洗浄し、8か月かけて自然乾燥させ、デジタルスキャンした。そのデータをもとにロボットが接合部を一本ごとに削り出すことで、木の有機的な形を保ったまま組み上げている。柱は樹冠のように天井へと広がり、さらに本棚、ベンチ、階段、間仕切り、窓枠、扉、キッチン、暖炉へと枝分かれしていく。Helen & HardはDezeenに対し「木々の樹冠の下に立つような体験を呼び起こしたかった」と述べ、「空間を進むにつれ、木の柱がリズミカルに連なり、構造の有機的な性格とあいまって、守られているという強い感覚を生む」と説明した。
扇形の平面は大西洋に向かって開き、主要な居住空間には幅9.5メートルの窓が方立て(マリオン)なしで一続きに広がる。ガラスは建物の大部分をぐるりと囲み、刻々と変わる光や反射、天候を室内に取り込む一方、窓台に段差を付けることで海から離れた場所には籠もり感を持たせた。反対側の端では細い玄関が風から守られた庭に面し、背後の植生から建物を貫いて海まで抜ける視線の通り道を作っている。
パノラマ窓の上では、片持ちの木の梁を2列に重ねて屋根をガラスより外まで張り出させ、風雨から窓を守る。「大西洋岸の天候は極めて厳しくなることがある」と同スタジオは述べ、「深い軒の張り出しと木構造の配置が、守られた親密な場所を作りながら、同時に海へと開いていく」と説明した。張り出した屋根の重さは、隠されたテンションケーブルとばねの仕組みで打ち消しており、ガラスの開口部に支柱を立てずに済ませている。主要な居住空間の片側にはキッチンと屋根付きテラス、反対側には二つのワークスペースがあり、うち一つは浴室の上の中2階に載る。中央の部屋から枝分かれするように小さな空間が続き、木の構造の下で仕事や料理、くつろぎのための親密な場所を作っている。
背景
この構造システムの下敷きは、バイキング時代にさかのぼるノルウェーの伝統的な造船技術だ。木造船では、幹と根の間の自然に曲がった部分を継手として使い、船体の肋材を補強してきた。自然の曲がりは繊維が連続しているため強く、Cabin Sandeはその知恵を現代のデジタルスキャンとロボット加工で建築に持ち込んだ形になる。
Helen & Hardは1996年にシヴ・ヘレーネ・スタンゲラン(Siv Helene Stangeland)氏とラインハルト・クロプフ(Reinhard Kropf)氏がスタバンゲルで設立したスタジオで、木造建築とデジタル加工技術を軸に、住宅から文化施設、公共プロジェクトまでを手がける。過去にはハルダンゲルフィヨルドを見下ろす樹上ホテル「Woodnest」や、スタバンゲルのコハウジング「Vindmøllebakken」などで知られる。
日本にとっての意味
自然に曲がった木をそのまま構造に使う発想は、日本の建築にも長い系譜がある。古民家では、アカマツなどの曲がり材を小屋組の梁(曲がり梁)に使い、木の繊維を切らずに強度を出す工夫が各地で受け継がれてきた。規格化された角材や集成材が前提の現代の木造建築では姿を消しつつある技法だが、Cabin Sandeは、デジタルスキャンとロボット加工を組み合わせれば「一本ごとに形が違う木」を現代の建築でも精度よく使えることを示しており、曲がり材や根株のように製材に向かず廃棄されがちな木材に価値を見いだす道筋として、日本の林業・木材加工の関係者にも示唆がある。
もう一つの接点は、規制の中での建て替えという条件だ。保護区域で旧建物と同じ規模・高さに制限されるという状況は、日本の国立公園内や景観条例のある地域での建築とも重なる。制約を逆手に取り、低い建物と現地の石、地形に沿う植栽屋根で風景に建物を沈み込ませた今回の手法は、同じ条件に向き合う日本の設計者にとって具体的な参考例になりうる。