カタルーニャの繊維倉庫を木造オフィスに改修、かつて12の工場が集った町で
スペイン・カタルーニャ地方の町エル・ポン・ダルメンテラ(El Pont d’Armentera)で、コンクリートと煉瓦造りの繊維倉庫の内側に、木の間仕切りで小さなオフィスを組み込む改修が完成した。設計はスペインの建築事務所NUA Arquitectures。発注したのは、この町で今も操業を続ける数少ない繊維会社の一つTuvatèxtilだ。英国のデザイン媒体Dezeenが2026年8月16日付で伝えた。
何が起きたのか
バルセロナ近郊のエル・ポン・ダルメンテラは、かつてカタルーニャ南部で最も重要な繊維産業の集積地で、12の工場を抱えていた。その面影の多くが失われた今、NUA Arquitecturesは残された倉庫の既存の造りを保って生かすことを選び、内側に独立した木構造のオフィスブロックを挿入した。倉庫の一角を木とガラスの間仕切りで囲い、執務と会議の空間2フロアを収めた「建物の中の建物」を作る構成だ。同事務所はDezeenに対し「このプロジェクトは、エル・ポン・ダルメンテラの産業と繊維の歴史を取り戻し、再生し、たたえるものだ」と述べ、「記憶、アイデンティティー、住まうことの間の仲立ちであり、適応的な保持と徹底した再利用だ」と説明した。
オフィスの北西側の入り口には、共用の石畳の広場を新設した。コンクリートとテラコッタ色の鋼材によるヴォールト(かまぼこ形)の天蓋が広場を覆い、樹木と曲線を描く街灯が点在する。事務所は「計画は『移行』という考えから発想され、工場群の中心に置かれた、木々の並ぶ新しい広場を軸に展開する。集い、休み、祝うための中心的な結節点だ」と説明する。西側では、オフィスが既存工場の輪郭の外へ張り出し、模様入りタイルの帯を頂く平屋の小さなブロックとなって、広場を見下ろす食堂とキッチンを収める。事務所が「レッドカーペット」と呼ぶテラコッタ敷きの通路が広場からオフィスを貫き、最後は階段とスロープで倉庫の床へ降りる。その床を、木枠のバルコニーが上から見下ろす。
背景
改修は周囲の倉庫にも手を入れている。コンクリートと煉瓦の構造を補強して新しい開口とトップライト(天窓)を設け、外壁には外断熱を施した。「主要な作業素材は、物理的にも文脈的にも、既存の建物そのものだ」と事務所は述べ、「だから、石も含めて使える要素はすべて再利用し、改修には木材やセラミックスといった軽量の構法を用いた」と説明している。NUA Arquitecturesは2013年、アルナウ・ティニェナ(Arnau Tiñena)、フェラン・ティニェナ(Ferran Tiñena)、マリア・リウス(Maria Rius)の3人がタラゴナで設立した事務所で、これまでにカタルーニャ地方の古い石造住宅の改修や農家住宅「Casa Juià」を手がけてきた。
日本にとっての意味
繊維の町の建物を壊さずに使い直す試みは、日本の産地の課題とも重なる。群馬県桐生市には明治から昭和にかけて建てられたのこぎり屋根の織物工場が約200棟残るとされ、カフェやギャラリーなどへの転用が続いている。ただ、その多くは織物業をやめた後の再利用だ。今回の事例は、操業を続ける繊維会社が自らの倉庫を働く場として更新した点が異なり、産業を続けながら建物だけを現代の働き方に合わせるという選択肢を示している。
もう一つの接点は木造化の流れだ。日本では2021年に公共建築物等木材利用促進法が改正されて対象が民間建築物にも広がり(通称「都市の木造化推進法」)、オフィス内装の木質化や中高層建築の木造化が進んでいる。既存のコンクリート躯体を残し、内側に木の構造を挿入する今回の手法は、解体せずに木材利用と省エネ改修(外断熱)を同時に実現した実例として、日本の建物ストック活用の議論にも参考になる。