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「悪魔のミルク」ゴムの家具 暴力の歴史を問う作品発表

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デザイナーのシャハル・リヴネ氏が、秤(はかり)と戸棚、ベンチの3点からなる作品集「The Devil’s Milk(悪魔のミルク)」を発表した。素材はいずれも異なる種類のゴムで、制作には2年がかかっている。ゴムがもたらした富が何の上に成り立っていたのかを、手に取れる家具の形で問い直す試みだ。デザイン専門メディアのDezeenが現地の8月18日に伝えた。

何が起きたのか

3点の中心にあるのが秤だ。リヴネ氏によれば、これはゴムがもっていた経済的な力を表している。19世紀から20世紀にかけてのゴムブームの時期、ゴムは貴金属と価値を比べられるほどの資源となり、世界の工業化を支えるために激しく採取された。

ただし、と同氏はDezeenに語る。「しかし、この莫大な富はすべて、残虐な搾取の上に成り立っていた」。採取された生のゴムは秤で厳密に量られ、厳しい労働ノルマを課して先住民を管理するために使われた。その過程で人々の身体は損なわれていったという。作品の秤は、この計量という行為そのものを指している。

戸棚には、ゴムノキの樹皮からとった木材が使われた。安価で欠点が多いとされる木材だが、リヴネ氏はその傷や表情をあえて前面に出している。象嵌(ぞうがん)として埋め込まれているのは、ヨーロッパ、アフリカ、インドネシア、南米の木だ。いずれもゴムの木材が採取された土地か、輸出された先にあたる。それらをゴムの木材に埋め込むことで、逆に木材の側を「植民地化する」のだと同氏は説明している。

ベンチは丸太を模した形で、素材は人の皮膚に似せてつくられた合成ゴムだ。映画の特殊効果で小道具や衣装に使われるもので、表面に彩色と質感を加えることで、人間から樹木への移り変わりを表そうとしたという。秤と戸棚に使われた天然ラテックスと天然ゴムはインドネシア産で、ベンチだけが合成ゴムという素材の分け方になっている。

背景

作品集の題名は、著述家ジョン・タリー氏の著書『The Devil’s Milk: A Social History of Rubber』からとられた。リヴネ氏はこの本を調査の一部として使ったという。

制作の2年で同氏が軸に据えたのは、「植物との親族関係(botanical kinship)」という考え方だ。植物を単なる資源ではなく、生物学的にも霊的にも人間の親族とみなす見方を指す。同氏は、自然を受け身で劣ったものと見なす西洋中心の考え方が抱える「植物への盲目さ」に挑もうとしたと述べている。

ゴムノキが自生するコンゴ、ボルネオ、アマゾンでは、森との関係は歴史的に霊的なものだったと同氏は言う。森は樹木が神聖な力を宿す生活の場であり、そこで何かを採ることは経済活動ではなく、意識をもつ神聖な環境との社会的なやりとりだった、という捉え方だ。ゴム産業は、この関係を断ち切る形で世界に広がっていった。

リヴネ氏は2020年にDezeen Awardsの新人デザイナー賞に選ばれており、これまでも海洋プラスチックから化石のような装身具を、食肉処理場の廃棄物からスニーカーをつくってきた。現在はキュレーターのイェフ・クラフト氏、デザインスタジオのDroogとともに、今回の調査をもとにした出版物を準備している。

日本にとっての意味

日本は天然ゴムを国内で生産しておらず、必要な量をすべて輸入に頼っている。輸入先はインドネシアとタイの2か国でほぼ全量を占め、消費量の7割以上がタイヤに回るとされる。つまり自動車に乗るという日常の行為は、この作品が素材に選んだインドネシア産のゴムと、そのまま地続きになっている。

リヴネ氏が秤を作品の中心に据えたのは、ゴムの富が「量る」という行為を通じて人を縛った歴史があるからだ。今日の天然ゴム生産でも、小規模な農家の収入は買い取り時の重量と価格で決まる構造は変わっていない。森林を切り開いてゴム園を広げる圧力や、生産地の労働条件は、消費する側からは見えにくいままだ。日本の自動車産業とタイヤ産業は、この供給網の一番端に立っている。

美術館に置かれた家具にできることは限られている。それでも、ふだんは値札と性能だけで語られる素材について、どこから来て誰が量ったのかを一度考えさせる仕掛けとしては、家具という形は理にかなっている。