マリ軍政、批判的な人気司会者らに禁錮7年の判決
西アフリカのマリで、軍事政権を批判してきた人気ラジオ・テレビ司会者と、生活費の高騰を訴えてきたインフルエンサーに、禁錮7年の判決が言い渡された。2人は「国家の信用を傷つけた罪」などで有罪とされ、数年にわたる拘束の末の判決となった。
何が起きたのか
バマコの控訴裁判所は現地時間8月17日(月)、放送司会者モハメド・ユスフ・バティリ氏(通称ラス・バス)と、「ロージー、生活費の値上がり」の名でSNS発信をしてきたロキア・ドゥンビア氏に、共謀と国家の信用毀損の罪で禁錮7年の判決を下した。ともに刑期に加えて執行猶予付きの禁錮3年も科された。AFP通信の記者が法廷で確認したという。
2人は、生活苦にあえぐ市民の実情を扱った2023年の番組が放送された後、数年にわたり身柄を拘束されてきた。裁判は現地の8月10日にバマコ控訴裁判所刑事部で始まったばかりで、証言台に立ったラス・バス氏のやつれた姿は多くのマリ国民に衝撃を与えたという。検察側は、ラス・バス氏が過去に自身の番組へロージー氏を2度招いたことを根拠に、2人が「共謀関係」にあったと主張した。弁護側はこの容疑を否定している。匿名を条件にAFPに証言した2人の弁護士によると、検察官は法廷で「ラス・バスは(軍政にとって)危険な存在」であり、「SNSやラジオから遠ざけておく必要がある」と述べたという。ラス・バス氏の父で、自身も弁護人を務める元閣僚モハメド・アリ・バティリ氏は、控訴するかどうかはまだ決めていないとAFPに語った。
背景
ラス・バス氏は「教育のための衝撃」を掲げ、率直な語り口でマリの社会・政治問題を批判してきた人物で、とりわけ若い世代から強い支持を集める一方、たびたび当局と衝突してきた。2016年8月には「軍への不服従の扇動」で一度逮捕され、支持者の圧力で2日後に釈放された。2017年には国外滞在中に禁錮12カ月の欠席判決を受けたが服役はしていない。2020年には当時のイブラヒム・ブバカール・ケイタ大統領への抗議運動「M5-RFP」に参加した。ケイタ氏はその後、ジハーディスト(過激派武装勢力)による反乱の鎮圧を掲げた軍将校らによって権力を追われた。同年12月には軍政への陰謀疑惑で再び逮捕されたが、証拠不十分で退けられ2021年4月に釈放されている。2023年7月には、拘束中の元首相の「暗殺」を虚偽の主張をしたとする別件の容疑で無罪となっていた。
マリでは2020年と2021年に相次いだクーデターで軍が実権を握り、アシミ・ゴイタ将軍の下で軍政が続いている。軍政は2024年3月までに文民統治へ移行するとの約束を果たしておらず、司法や強制力、政党の解散などを通じて反体制派の活動空間を狭めてきたとされる。国境なき記者団(RSF)が発表した2026年版の「世界報道自由度ランキング」で、マリは180カ国中121位となっている。マリは2012年以降、アルカイダ系やイスラム国系のジハーディスト、犯罪組織、武装分離勢力による深刻な治安危機に見舞われている国でもあり、軍政はこうした安全保障上の不安定さを統治の正当化材料にしてきた面もあるとみられる。
日本にとっての意味
日本のメディアはマリのようなサヘル地域の軍政をめぐる報道が乏しく、こうした言論弾圧の具体的な経緯が日本語で伝えられる機会はほとんどない。しかし今回の判決は、クーデターで成立した軍政が、選挙や議会を経ずに司法手続きを使って批判的な発信者を長期間拘束し、有罪へ持ち込む手法の一例として読む価値がある。西アフリカではマリのほか、ブルキナファソやニジェールでも軍政が続いているとされ、SNSやラジオを通じた発信者への圧力が共通して報告されている。権威主義体制が情報統制の手段として司法や治安機関をどう使うかという問題は、日本の報道機関が海外で取材・発信する際のリスク評価や、報道の自由に関する国際的な指標を理解するうえでも参考になる。また、日本企業がアフリカで事業を展開する際の政治・治安リスクの判断材料としても、こうした軍政下の統治実態を把握しておく意味は小さくない。