気候・災害

アンゴラの泥炭地、想定より広範囲に存在すると判明

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アンゴラ中部の高地に広がる「アンゴラ・ハイランズ・ウォーター・タワー(Angolan Highlands Water Tower、AHWT)」で、これまで考えられていたよりも広範囲に泥炭地が存在するとの調査結果が発表された。泥炭地は数千年分の炭素を蓄える「炭素の貯蔵庫」であり、農地開発や野焼きによって破壊されると大量の二酸化炭素を放出する場所でもある。

何が起きたのか

現地時間8月20日付で学術誌フィロソフィカル・トランザクションズ・オブ・ザ・ロイヤル・ソサエティ(Philosophical Transactions of the Royal Society)に掲載された研究によると、面積38万382平方キロメートルに及ぶAHWT全域を対象に泥炭地の分布を調べたところ、地域全体の2.28〜2.94%が泥炭地であることが分かった。高い確度(81〜100%の確率)で泥炭地と確認された面積は8662平方キロメートル、確度が低いもの(51〜100%の確率)も含めると1万1167平方キロメートルに達した。研究チームは人工衛星センチネル2号の観測データと現地調査を組み合わせ、5回の野外調査で候補地51地点を訪れた。従来の研究は主に衛星データに頼っており、対象範囲も6万1590平方キロメートルにとどまり、推定された泥炭地は1634平方キロメートルにすぎなかった。今回はそれよりはるかに広い範囲を、現地調査を交えて精査した点が特徴だ。

調査を率いたワイルド・バード・トラスト(Wild Bird Trust)の地理空間生態学者マウロ・ロウレンソ氏は、Mongabayの取材に対し「地下水に支えられたこの泥炭地は、炭素を蓄え、河川の流量を調整し、アンゴラ国外まで水の供給を支えているにもかかわらず、これまでほとんど研究されてこなかった」と述べている。研究は、ワイルド・バード・トラストとアンゴラの現地団体フンダサォン・リシマ(Fundação Lisima)、ナショナルジオグラフィックのオカバンゴ・ワイルダネス・プロジェクト、米国の環境保護団体ネイチャー・コンサーバンシー(The Nature Conservancy、TNC)が共同で行った。調査地域はアンゴラ内戦時の紛争地帯にあたるため、一部の調査には地雷除去団体ハロ・トラスト(Halo Trust)の協力を得たという。

背景

泥炭地とは、枯れた植物が完全に分解されないまま水浸しの土壌の中に堆積してできる土地のことで、世界の陸地面積のわずか3%程度しか占めないにもかかわらず、地球上の土壌炭素の最大で3分の1を蓄えていると見積もられている。水を大量に含んだ状態が保たれている限り分解が進まず炭素が閉じ込められたままになるが、排水されたり火が入ったりすると急速に分解が進み、蓄積してきた炭素が二酸化炭素として大気中に放出される。研究チームは、この地域で最大の脅威は人間活動によるものだと指摘する。焼き畑農業や、農地にするために泥炭層を排水する「溝掘り」といった手法が、蓄えられてきた炭素を放出させてしまうという。

AHWTは南部アフリカ各地の淡水系に水を供給する「水源」としての役割も大きい。隣国ボツワナの世界遺産オカバンゴ・デルタも、この地域からの水に依存する水系の一つだ。こうした重要性を踏まえ、アンゴラ政府は2025年10月、AHWT内の5万3000平方キロメートルを、湿地の保護を目的とする国際条約に基づく「ラムサール条約湿地」として同国で初めて指定している。地元では現地の言語で「命の源」を意味する「リシマ・リャ・ムウォノ」と呼ばれ、この地域に暮らすルチャジ族などの生活とも密接に結びついている。TNCのオカバンゴ・プログラム責任者セクゴワ・モツミ氏によれば、多くの住民は自給的な農業や狩猟で生計を立てているという。農業による泥炭地の劣化を防ぐことと、地域住民の生活との両立が、今後の課題になるとみられる。TNCなどはアンゴラ政府と協力し、泥炭地の炭素貯蔵の価値を同国の気候政策に組み込む取り組みを進めているとされる。

日本にとっての意味

泥炭地は、森林と並んで地球規模の炭素循環を支える重要な生態系でありながら、その分布や規模の把握が遅れている「盲点」になりやすい場所だ。今回の研究のように、これまで想定されていた面積より実際には広範囲に炭素が蓄えられていたと分かる例は他地域でも起こりうる。逆に言えば、こうした泥炭地が農地開発や乾燥、火災によって破壊されれば、これまで排出量として計算されていなかった大量の二酸化炭素が新たに放出されることになり、各国が積み上げてきた温暖化対策の前提を揺るがしかねない。日本は国内に大規模な熱帯泥炭地を持たないものの、紙製品や食用油の原料となるパーム油など、東南アジアの泥炭地開発と関わりの深い産品を輸入しており、泥炭地の保全状況は間接的に日本の消費活動ともつながっている。また、こうした地域の炭素蓄積量の見直しは、国際的な温暖化ガス排出量の算定や、企業が活用するカーボンオフセット(carbon offset、他国での削減・保全分を自国の削減として計上する仕組み)の信頼性にも影響しうる。専門誌に載った地味な発見に見えても、気候変動対策の全体像を正確に描くうえで見過ごせない情報だと言える。