海外政治

イラク、9月30日の有志連合撤収完了で「歴史的転換」表明

イラク の記事一覧 ・ アフリカ

イラク軍最高司令官の報道官が現地時間22日、米国主導の有志連合(Coalition、2014年に過激派組織IS〈イスラム国〉掃討のため結成された多国籍の軍事連合)による軍事任務が現地の9月30日に終了し、部隊の撤収が完了することが「戦略的な節目であり、歴史的な転換」になると述べた。首相も現地時間8月12日、現地の10月1日が「イラクの国家としての新しい一日」になると表現しており、政権として撤収完了を国家の節目と位置づけていることが分かる。

何が起きたのか

イラク通信社(INA)によると、イラク軍最高司令官の報道官サバハ・ヌマン氏は、現地の9月30日という撤収期限は恣意的に選ばれたものではないと説明した。イラクの軍・治安機関が領土の管理やテロの脅威への対処、国家の安全保障の運営を「完全に独自に」担えることが確認されたうえでの決定だという。ヌマン氏はまた、イラクがテロ組織を打ち破り、地域やそれ以外へのテロの拡散を防ぐ能力を示してきたとも述べ、撤収完了後は安全保障、経済、訓練の各分野で、相互の尊重とイラクの主権を前提にした新たな協力関係が他国との間で始まるとした。

これに先立つ現地時間8月12日には、アリ・ザイディ首相が米中央軍(CENTCOM)司令官のブラッド・クーパー氏との会談で、現地の9月30日が有志連合の軍事任務終了と部隊撤収完了の期限だと述べた。ザイディ氏は、現地の10月1日がイラクの国家としての新しい一日になると述べ、イラクが外国軍の駐留のない状態になるとの見通しを示した。両氏は有志連合の軍事任務終了で合意するとともに、米国とイラクの関係を今後、主権の尊重と共通の利益に基づく経済・安全保障面の協力へと移していく方針を確認した。

背景

有志連合は2014年、ISがイラクとシリアの広範な地域を制圧したことを受けて米国主導で結成された。イラクは2017年12月、ISが支配していた領土を奪還し、軍事的な勝利を宣言している。その後も連合軍はイラク側の要請により、助言・訓練を担う役割で駐留を続けてきた。つまり2017年の勝利宣言以降、有志連合の位置づけは前線での戦闘部隊から後方の助言役へと既に変化しており、今回の、現地の9月30日の撤収完了は、その助言・訓練任務そのものに区切りをつける決定と言える。

もっとも、今回の発言からは撤収の実務的な中身、例えばイラク北部クルディスタン地域などでの米軍の存在がどう扱われるか、あるいは過去の米イラク間の合意に基づく駐留の段階的な縮小がどのような経過をたどってきたかといった詳細は分からない。ザイディ氏が「外国軍の存在がない」状態になると述べる一方で、ヌマン氏は今後も安全保障や訓練面での協力関係が続くとも述べており、この両者がどう両立するのかは、今回の発言だけでは判然としない。有志連合としての枠組みが終わったあとも、米イラク間の二国間の協力が別の形で残る可能性がある、という含みを持った表現とも読める。

日本にとっての意味

日本は原油の輸入の多くを中東湾岸地域に依存しているとされ、同地域における米軍の展開規模や関与の形は、原油の輸送路であるホルムズ海峡周辺の安定と無関係ではないとみられる。イラクを含む中東での軍事プレゼンスの縮小は、地域の安全保障環境が変化する一つの兆候として注視する価値がある。

また、日本はイラクの復興や治安の安定に向けて、これまで政府開発援助(ODA)などを通じた関与を続けてきたとされ、イラク国内の治安情勢は現地に進出する日本企業や、現地に渡航・滞在する日本人の安全にも関わる。今回の発言だけからイラク国内の治安が今後どう推移するかを断定はできないが、有志連合という枠組みが終わったあと、イラクの治安機関が独力で安定を維持できるかどうかは、外務省の渡航情報や現地でのビジネス環境の判断材料として、引き続き関心を持って追う必要がある。