南アフリカ沖合油田開発、住民と環境団体が法廷で対抗
南アフリカで、政府が推し進める沖合石油・ガス開発計画に対し、沿岸の漁業者や環境団体が裁判で異議を申し立てている。石油大手のTotalEnergiesとShellが手がける2件の開発計画がそれぞれ提訴され、判決次第では国の開発戦略そのものが見直しを迫られる可能性がある。
何が起きたのか
南アフリカ西岸のサルダーニャ湾の町は、かつて鉄鉱石の積み出し港として栄えた漁村だが、政府は現在ここを「南アフリカの石油・ガス拠点」に育てようとしている。政府は2014年以降、自国の海洋資源を最大限活用する「オペレーション・パキサ(Operation Phakisa)」という戦略を進めており、約3000キロメートルに及ぶ海岸線沿いの海域の95%以上が、すでに石油・ガス探査のために区画分けされている。計画では今後10年間で30本の探査井を掘削し、日量37万バレルの石油・ガスを生産することを見込んでいるという。
この計画に対し、2件の訴訟が起こされている。1つは、サルダーニャ湾の北方約400キロの沖合、ナミビアとの国境に近い「オレンジ盆地」と呼ばれる生物多様性の高い海域で、TotalEnergiesが約3万平方キロメートルの区画で進める探査計画をめぐるものだ。地元の漁業協同組合アウコトワが、環境団体The Green ConnectionやNatural Justiceの支援を受けて提訴し、環境影響評価が気候変動への影響を考慮しておらず不十分だったと主張している。西ケープ高等裁判所は3月下旬に審理を終えており、2026年内にも判決が出る見通しだ。協同組合の代表ウォルター・スティーンカンプ氏は「この開発は一体誰のためのものなのか。少なくとも我々のためではない」と述べている。
もう1つは東岸の「ワイルドコースト」と呼ばれる地域で、住民団体Sustaining the Wild Coastなどが、ShellとImpact Africaによる探査許可に対して2021年から異議を申し立ててきた。南アフリカの法律では開発前の住民への説明が義務づけられているが、これが十分に行われなかったと訴えていた。この訴訟では現地時間2026年8月14日、憲法裁判所が探査権の付与を違法と判断し、取り消す判決を下している。
背景
オペレーション・パキサは、南アフリカが海洋経済の育成によって経済成長を図ろうとする国家戦略で、石油・ガスだけでなく、水産養殖や海上輸送、観光といった分野も対象に含む。政府は資源開発を経済発展の柱と位置づけているが、地元の漁業者らは、開発の恩恵が地域住民に還元されず、むしろ漁場の悪化や生活基盤の喪失につながると懸念している。
世界的にも、石油・ガス業界は海洋に照準を移しており、2024年に見つかった新規油田・ガス田の85%以上が洋上だったとされる。海底の掘削は海洋生態系への影響に加え、海が大気中の余分な熱を吸収する働きを弱め、地球温暖化を助長するとの指摘もある。南アフリカの訴訟を支援する法律系NPO、Natural Justiceのプログラム責任者メリッサ・グルーニンク=グローブス氏は、住民が裁判で勝てば、その成功例は他の地域の住民が自らの権利を主張する際の後押しになると話しており、今回の一連の裁判が地域全体の気候訴訟や環境影響評価のあり方に波及する可能性があるとみている。
日本にとっての意味
アフリカ発の気候訴訟は、日本の報道で取り上げられる機会が多くないとみられる分野だ。しかし今回のケースは、化石燃料の拡大に対して住民が法廷を通じて異議を唱える動きが、欧米だけでなくアフリカの沿岸地域にも広がっていることを示している。TotalEnergiesやShellのような国際石油大手は、日本の電力会社や商社とも液化天然ガス(LNG)調達や資源開発で取引関係を持つことが多いとみられ、こうした企業の海外プロジェクトが現地でどのような法的リスクや社会的反発に直面しているかは、間接的に日本のエネルギー調達にも関わってくる。加えて、住民説明や環境影響評価の不備を争点とする訴訟の枠組みは、日本国内でも大規模開発をめぐる合意形成のあり方を考えるうえで参考になる事例といえる。