デザイン・雑貨・イベント

フローニンゲン美術館「もっと有名になっていい」と芸術監督

オランダ の記事一覧 ・ ヨーロッパ

オランダ北部のフローニンゲン美術館で芸術監督を務めるロース・ゴルツァク氏が、デザイン誌Dezeenのインタビューに応じ、同館のポストモダン建築と現代美術の結びつきを深める新方針を語った。「この美術館はもっと有名になって当然だ」と述べ、9月から新たなプログラムを始める。記事は8月20日付。

何が起きたのか

ゴルツァク氏は「キュレーターは常に、自分がいる場所から出発しなければならない。ここでやっているのと同じ芸術的な方向づけを、他の場所では決してしなかっただろう」と語る。「どこにでもあり得るほどニュートラルな美術館もあるが、うちの建物は、建物を避けて通ることができない」

同氏は美術館の建築から「実験的」「学際的」「集合的」という3つの中核的価値を読み取り、これをキュレーションの出発点に据えた。「この建物の中核的価値は、いまの時代とよく響き合う」と話す。歴史的に同館で取り上げられてきたつくり手の偏り、とりわけ建物を4人の男性が設計したという事実を踏まえ、新しいプログラムでは女性やノンバイナリーの作家が主導する現代美術を中心に収集する方針だ。こうした声はこれまで「議論から著しく欠けていた」という。

新プログラムは9月に、相互に関連する4つの展覧会の同時開幕で始まる。その一つ「The Architect & The Housewife: Cleaning the House, Building the Future(建築家と主婦:家を掃除し、未来を築く)」は、日常と家庭内の力学や、建築の裏方仕事と家事の共通点を扱う。ザハ・ハディッドが1990年にフローニンゲンの祭典のために手がけた「ミュージック・ビデオ・パビリオン」の模型や、建物の調整役を務めた設計者アレッサンドロ・メンディーニがデザイナーたちと制作した98点の花瓶のコレクション(メンディーニ自身も女性名義で参加)などが並ぶ。今後1年間、プログラムは「建築家」と「主婦」という2つの人物像を軸に、誰が大きな構想を許されるのか、創造的な営みと日々の暮らしの要求はどう両立するのかを問うていく。

背景

1994年に開館した同館の建物は、橋でつながれた3つのパビリオンからなり、それぞれ別の建築家が大きな裁量を与えられて設計した。中央にはメンディーニによる窓のない黄色い塔が立ち、ピンクと緑の棟が脇を固める。その一方の側にはフィリップ・スタルク設計の金属の円筒が、メンフィス・グループのミケーレ・デ・ルッキによる砦のようなれんがの基壇に載り、もう一方にはオーストリアのコープ・ヒンメルブラウによる脱構築主義の棟が並ぶ。運河の中州という目立つ立地と奇抜な建築にもかかわらず、3年後に開館したフランク・ゲーリーのグッゲンハイム美術館ビルバオのような影響力は持てなかった、と記事は指摘する。

ゴルツァク氏はキュレーター・批評家として25年以上のキャリアを持ち、ミデルブルフのフレースハル現代美術センター館長を10年務めた後、2025年2月に着任した。美術館全般が来館者減と資金難に直面する「非常に難しい時期」だとしつつ、「自由時間の使い道も情報の得方もたくさんあり、美術館に行くことは自明ではない。それ自体は悪いことではないが、美術館をこの時代にどう意味あるものにし続けるかを考えることが大切だ」と語る。展示室の壁にメンディーニが定めた22色のパレットや、入口から階段を下りて展示に向かう動線など、建物の個性をキュレーションの核に取り込む考えも示した。

日本にとっての意味

フローニンゲン美術館は、メンディーニやスタルクらデザイン界の大物が競演した建物として日本の建築・デザイン愛好家にも知られてきた存在で、その方向転換は見どころがある。来館者の減少と資金難の中で、建物の個性そのものを企画の軸に据えるという手法は、著名建築家の設計による美術館を多く抱える日本の地方館にも通じる戦略だろう。話題性のある建築を建てて終わりにせず、開館から30年を経てなお建物を「読み直す」ことで新しい物語を引き出そうとする点に、この試みの新しさがある。

また、収集の中心を女性やノンバイナリーの作家に置くという明確な方針は、収蔵作家の偏りの見直しが始まりつつある日本の美術館にとっても一つの参照例になる。展覧会が家事や見えない労働を建築と並べて論じるように、美術館が現代の社会的な問いを建物ごと引き受ける姿勢は、文化施設の役割を考える手がかりになる。