英ホートン・フェスティバルに茅葺きの木造タワー設置
英国ノーフォークで8月6日から9日にかけて開かれた音楽・アートの祭典ホートン・フェスティバルで、デザインスタジオのセラ・コレクティブ(Cella Collective)とマイター・アンド・マンデーズ(Mitre & Mondays)が、壁一面を茅葺きで覆った木造のインスタレーション「Water Tower(ウォーター・タワー)」を設置した。茅は持続可能な方法で管理された葦原から調達した。デザイン誌Dezeenが8月24日付で紹介した。
何が起きたのか
ウォーター・タワーは高さ5.5メートルの塔状の構築物で、飲食エリアとステージの一つの間に置かれ、来場者が一息つける休憩の場として機能した。デザインは、会場近くにあるホートン・ホールのために1772年に建てられた給水塔から着想を得ている。
構造は木造の骨組みで、傾いた壁で仕切られた4つの開口を持ち、壁は何層にも重ねた茅で覆われた。頂部には茅の環がのり、内部では壁から木製のベンチが張り出す。腰掛けると、頭上には円形に切り取られた屋根の開口が見える。
マイター・アンド・マンデーズ共同創設者のジョゼフ・シャンリー・ジャクソン氏はDezeenの取材に「地面から生えてきたように見えるものを体験してほしかった。日陰の内部で涼しさを感じ、手仕事の風合いを確かめながら、この構築物とのつながりを感じてもらいたい」と語る。セラ・コレクティブのアリス・ハーグリーブス氏は「茅葺きの構築物は、内も外も、現代的でありながら古めかしくも感じられる」と述べ、「材料の育成から建築物まで、気候の冷却に大きく貢献する建材として、いま茅を見直すのは理にかなっている」と話す。
背景
2人のスタジオは、環境を回復させながらつくる「リジェネラティブ(再生型)デザイン」の原則に立って設計を進めた。茅は英国王立鳥類保護協会(RSPB)が管理する葦原から調達したもので、RSPBが保全のために刈り取った葦の副産物を活用する仕組みだ。材料の購入自体が同協会の保全活動と地域の野生生物を支えることにつながる。
ハーグリーブス氏は「葦原の風景と茅葺きの技という、それぞれのかたちで危機や衰退にさらされている素材の生態系全体を、デザインの中心に据えた」と説明する。「これは、グローバルなサプライチェーンに組み込まれた既製品しか簡単には買えないという『便利さの文化』に抗う試みでもあった。それに挑み、一つの素材を丸ごと受け入れる方法を学びたかった」
茅葺きの施工にあたっては、チェシャーを拠点とする茅葺き職人のウェイン・ハーフペニー氏とスティーブ・ケリー氏に助言を求めた。セラ・コレクティブのエラ・コールディコット氏は「葦に合わせて設計を調整しながら、職人たちの直感的なものづくりの進め方を取り入れた。その直感が施工の一部になり、多くの判断は目の前のものを試し、合わせながら下された」と振り返り、「本を読んで学べることではない。手と目で学ぶものだ。だからこそ職人たちとの協働には大きな価値がある」と語っている。
ウォーター・タワーは解体したうえで、今後のホートン・フェスティバルで再び組み立てて使われる予定だ。Dezeenは2026年2月に、世界の現代的な茅葺き建築9件をまとめて紹介しており、古くからの技への再評価が広がりつつあると指摘している。
日本にとっての意味
茅葺きは日本でも民家や社寺の屋根として長く受け継がれてきた技術だが、職人の高齢化と、材料を採る茅場の減少という二重の課題を抱えている。今回の事例が示すのは、材料の供給地である葦原の保全と建築を一つの仕組みとして結びつける発想であり、自然保護団体が管理する茅場の副産物を建材に回すやり方は、日本の茅場維持にも応用の余地がある。
また、音楽フェスティバルという若い観客が集まる場に茅葺きを持ち込み、涼しさや手仕事の風合いといった体験を通じて伝統素材に触れさせる手法は、文化財の修復現場に閉じがちな日本の茅葺きを、より広い層に開く手がかりにもなるだろう。