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収監経験のある親を持つ若者らが企画、ロンドンで刑事施設のアート展

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イギリス・ロンドンのサウスバンク・センターで今秋、収監経験のある親を持つ若者たちが企画した展覧会「Rock, Paper, Scissors」が開かれる。刑務所や少年院、司法精神病院などに収容されている人たちが作った作品のうち、7500点余りの応募から選ばれた200点以上を展示する。

何が起きたのか

展覧会は、受刑者らによる芸術活動を表彰する毎年恒例の「ケストラー賞(Koestler Awards)」に連動する企画展で、主催団体ケストラー・アーツ(Koestler Arts)が運営する。今回の企画展の作品選定を担ったのは、親が収監された経験を持つ18歳から35歳の若者でつくるグループ「Parental Imprisonment Collective(PIC)」のメンバー5人だ。選定にあたっては、作者の名前や境遇についての情報を一切与えられなかったという。

展示は絵画や彫刻、テキスタイル、音楽、文章、工芸など幅広い分野にまたがり、子ども時代、家族、家、拘束、想像力、風景といったテーマで構成される。PICは声明で、子ども時代から始まる人生の歩みと、人生がたどりうるさまざまな道筋を伝える展覧会をつくったとしたうえで、「訪れた人には、刑務所にいる人も皆かつては子どもだったということを忘れないでほしい。彼らは刑期だけの存在ではない」と述べている。

展示される作品の作者名は公表されない。イングランドとウェールズの刑務所・保護観察局(HMPPS)が2023年に導入した方針により、受刑者のファーストネームを作品と並べて表示することが禁じられているためだ。この方針は被害者保護を目的としているとHMPPSは説明しているが、過去にケストラー展の企画に携わった人たちからは、名前を伏せることで作品の公表が持つ更生上の意義が損なわれるとの批判が出ていた。今回の展示でもこの方針は維持される。

売却可能な作品もあり、寄付金は犯罪被害者を支援する慈善団体ビクティム・サポート(Victim Support)に充てられる。会期は現地の10月16日から11月29日まで。会場はサウスバンク・センター内に新たに改装された「Undercroft」スペースで、入場は無料。過去にはアイ・ウェイウェイ、アントニー・ゴームリー、グレイソン・ペリーらもこの企画展の選定に携わってきた。

背景

イングランドとウェールズでは、2021年から2022年の1年間で約19万3000人の子どもが親の収監を経験したと推計されている(イギリス法務省統計)。親の収監は子どもにとって、住居の不安定化や周囲からの偏見、経済的困窮など複合的な影響を及ぼすとの指摘があるが、当事者である子ども自身の声が公の場で取り上げられる機会は限られてきたとみられる。

サウスバンク・センターの芸術監督マーク・ボール氏は、イングランドとウェールズで刑務所の状況や受刑者数の増加をめぐる議論が続く今、この展覧会は時宜にかなっていると述べ、親が収監された若者たちは「異なる種類の刑期」を生きていると表現した。ケストラー賞自体は長年、刑務所内での創作活動が更生や心の健康に果たす役割を可視化する取り組みとして知られてきたが、今回はその作品を選ぶ側に、受刑者本人ではなく、その子どもだった世代を据えた点が特徴といえる。

日本にとっての意味

日本では、受刑者の子どもの数や実態についての公的な統計はほとんど整備されておらず、当事者の声が報道や展覧会という形で公に語られる機会もまれとみられる。今回のイギリスの事例は、親の収監という経験が子どもにどのような影響を及ぼすかを、国が統計として把握し、当事者団体が結成され、公共の文化施設で発信するという一連の流れがあることを示している。

こうした可視化の仕組みの有無は、単に文化的な違いにとどまらず、支援制度の設計にも関わってくる問題だ。イギリスでは受刑者の子どもを対象にした民間支援団体や研究の蓄積があるとされ、その延長線上に今回のような展覧会企画が成立しているとみられる。日本でこの種の当事者性が語られにくい背景には、受刑や司法手続きに関する情報公開の考え方の違いや、家族のプライバシーをめぐる社会的な受け止め方の違いもあるとみられる。今回の展覧会は、犯罪や刑罰の当事者を「加害者とその家族」という枠組みだけでなく、子どもという独立した存在として捉え直す試みとしても読める。