EU森林破壊防止規則、リベリアのカカオ輸出に打撃の恐れ
EUはリベリア産カカオの最大の輸出先で、2024年の輸入量は2年間で30%増え、1万7000トン超に達した。しかしEUが導入する森林破壊防止規則により、この取引の先行きが不透明になっている。カカオ産地であるグランドゲデ郡では、規則が定める基準日以降に森林が大きく失われており、輸出そのものが立ち行かなくなる恐れがある。
何が起きたのか
EUでは、森林を切り開いて作られたカカオなどの産品の輸入を制限する「森林破壊防止規則(EU Deforestation Regulation、EUDR)」の適用開始が近づいている。この規則は2020年12月31日を基準日とし、それより後に森林伐採された土地で生産された産品の輸入を禁じるものだ。環境保護団体レインフォレスト・アライアンスのオーウェン・ギボンズ氏は、基準日以降に伐採された土地で作られたカカオは、森林破壊を理由に輸入できなくなると説明する。
問題は、単なる書類の不備ではなく、産地の土地そのものに関わる点にある。グランドゲデ郡はかつて99%が森林に覆われていたが、カカオ農園の多くは森の奥深くにあり、しかもこの地域の森林減少の多くはまさに基準日である2020年以降に起きている。森林の一部は地域共同体が所有し、個人に貸し出せる仕組みになっているほか、商業農業が禁止されているクワ国立公園の予定地にまで農園が広がっている例もあるという。
規則を満たすには、生産者は農園の位置と栽培を始めた時期を輸出先に証明しなければならない。だがリベリアには、コートジボワールやガーナが長年かけて整えてきたような、生産地を追跡する全国的な仕組みがまだ存在しない。ギボンズ氏は「リベリアはこうした取り組みのすべてにおいて、まだごく初期の段階にある」と述べている。たとえ追跡の仕組みを整えたとしても、グランドゲデ郡の森林減少の多くが基準日より後に起きている以上、EUがそのカカオの輸入を拒む可能性は残る。
産地と輸出業者を仲介する買い付け組合の関係者は、森林が失われつつあることは認識していても、EUの規則がなぜ自分たちの商売を脅かすのか理解できていないという。一方、欧州議会のドイツ選出議員デララ・ブルクハルト氏は、生産を始めたばかりで準備が整っていないリベリアの農家の不満は理解できるとしつつも、「長期的には持続可能な農法を後押ししなければならないし、森林の皆伐は法律違反にあたる」と述べている。
背景
EUがこうした規制を導入する背景には、チョコレートや紙、パーム油、大豆、木材、牛肉、ゴムといった輸入品が、輸入国側の需要を通じて途上国の森林破壊を後押ししているという指摘が長年あったことが挙げられる。カカオ栽培はもともと森林を切り開いて行われることが多く、コートジボワールやガーナといった主要生産国でも森林減少の要因の一つとされてきた。両国は生産地の位置情報を記録し追跡する仕組みを数年がかりで整備してきたが、リベリアはこうした基盤づくりが遅れているとみられる。
基準日をあえて過去(2020年末)に設定しているため、それ以降に新規開拓された農園はどれだけ丁寧に記録を整えても救済されない。グランドゲデ郡のように森林の大部分が近年に失われた地域ほど、規則の影響は大きくなるとみられる。
日本にとっての意味
EUDRの対象はEU域内に産品を輸入・流通させる企業に限られているとされるが、その考え方は、EU向けに製品を出荷する国外の企業にも同様の証明を事実上求める流れを作りつつある。日本の製菓・食品企業がEU市場向けにチョコレート製品などを輸出する場合、原料のカカオが基準日より後に伐採された土地で作られていないことを、サプライチェーンをさかのぼって示す必要が出てくる可能性がある。
またリベリアのように生産地の追跡体制が整っていない国がEU向け輸出を絞られれば、世界のカカオ需給や価格にも波及しうる。日本はカカオのほとんどを輸入に頼っており、コートジボワールやガーナが主要な調達先とされる。こうした国々の生産余力や取引条件は、EU向けの規制対応のあおりを受ける形で変わっていく可能性がある。EUの規制動向を域内だけの話として見るのではなく、チョコレートの原料調達の川上で起きている変化として捉えておく価値がある。