スペイン、セウタ移民危機を「国家安全保障上の利益」に指定
スペイン政府は、アフリカ大陸北端の飛び地(自治都市)セウタで起きている移民の急増を「国家安全保障上の利益」と宣言した。モロッコからセウタへ不法に越境した人は約8万人にのぼるとされ、約1か月たった今も緊張が続いている。政府は複数の官庁を束ねる新しい調整組織を設け、移民をモロッコへ安全に送還する体制づくりを急ぐ。
何が起きたのか
セウタは陸でモロッコと接するスペインの自治都市で、アフリカ側にある欧州連合(EU)の外部国境の一つとして知られる。この飛び地に、モロッコ側から約8万人が不法に越境したとされ、政府はこの状況を「国家安全保障上の利益」に指定した。
現地時間の8月25日午前、サンチェス首相は首相官邸(モンクロア宮)で治安に関する特別会合を主宰し、続けて閣議が開かれた。会合後の記者会見で、新組織の調整役に指名された領土政策担当相のアンヘル・ビクトル・トレス氏が概要を説明した。トレス氏は、セウタに残る移民や未成年者の送還を「優先事項」と位置づけたうえで、「国際法の枠内で、人権を尊重しながら」進める必要があると述べた。新組織は、これまで別々に動いていた複数の官庁の対応を一本化し、送還を含む一連の手続きを調整する役割を担うとみられる。
背景
セウタは陸路でアフリカ大陸とつながる数少ないEU域内の土地で、アフリカから欧州を目指す人々にとって長年、越境ルートの一つになってきた。今回のように短期間に大人数が国境を越える動きが起きると、地元自治体だけでは収容や行政手続きが追いつかなくなり、中央政府が前面に出て指揮を執る必要が生じる。「国家安全保障上の利益」という指定は、スペインの制度上、こうした事態で中央政府が各省庁や地方の権限をまたいで主導する枠組みとされる。
送還の実務では、相手国であるモロッコの協力が欠かせない。受け入れ国が引き取りに応じなければ、送還自体が進まないためだ。また、越境者の中に未成年者が含まれる場合は対応がより難しくなるとみられる。子どもの送還は、送還先での安全や生活環境への配慮が国際的な人権の枠組み上求められ、大人の送還よりも慎重な手続きが必要になるためだ。トレス氏が人権と国際法への言及をあえて強調した背景には、こうした事情があると考えられる。
国境管理を巡っては、スペインとモロッコの間で外交上の駆け引きの材料になってきたという指摘もある。
日本にとっての意味
日本には陸続きの国境がなく、今回のような大人数の一斉越境が起きる構造そのものはない。しかし、この出来事が示す課題のいくつかは、日本の入管行政にも共通する。
第一に、送還が相手国の協力に左右される点だ。スペインがモロッコの受け入れなしに送還を進められないのと同様に、日本でも退去強制の対象者を出身国が引き取らなければ手続きが滞ることがある。第二に、中央と地方の役割分担の問題だ。スペインは自治都市を越えて中央政府が調整に乗り出したが、日本でも出入国在留管理は国の所管である一方、収容中や仮放免後の生活支援、子どもの教育などは自治体が担う場面が多く、両者の連携のあり方は常に課題とされてきた。第三に、未成年者の扱いだ。年齢や人権への配慮を理由に手続きが複雑になる構図は、日本の入管施設や難民認定手続きでも指摘されてきた論点と重なる。
欧州の事例は規模も制度も日本とは異なるが、送還の実務や中央・地方の分担、未成年者への対応という論点は共通する。海外の対応を知ることは、日本の入管政策を考えるうえでの比較材料になる。