感染した英国の医療従事者の4人に1人にロングCOVID 報告書
英国の医療制度NHS(National Health Service、国民保健サービス)に関する調査機関「NHS Race and Health Observatory」が現地時間8月13日に公表した報告書で、新型コロナウイルスに感染した英国の医療従事者のうち、約4人に1人が5週間以上続く症状、いわゆるロングCOVID(long COVID、感染後長期間続く後遺症)を経験していたことが分かった。世界規模の調査では、感染から1年後も症状が残っていた割合は26.5%だった。症状を抱えた職員は、NHSからの支援が「一貫性がなく不十分」だったと述べている。
何が起きたのか
この報告書は、レスター大学、ノッティンガム大学、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)と共同で、NHS Race and Health Observatoryが2022年から3年かけて実施した調査の成果だ。世界各国の6481人の医療従事者を対象にした28件の既存研究を分析したところ、感染者のうち平均22週間の追跡期間でおよそ40%がロングCOVIDの症状を抱えており、1年間追跡できた人に限ると26.5%が症状を持ち続けていた。症状としては疲労が最も多く35%、脳の霧(brain fog、思考力や集中力の低下を指す症状)や頭痛といった神経症状と嗅覚・味覚の異常がそれぞれ25%、筋肉痛が22%、息切れが19%だった。
英国内の医療従事者を対象にした独自調査では、2020年12月から2021年3月に調査を受けた感染経験者の23%が5週間以上の症状を、2021年10月から2022年10月に調査を受けた人の27%が12週間以上の症状を報告した。女性であること、基礎疾患があること、初回感染が重症だったことがロングCOVIDのリスクを高める要因として挙げられたほか、看護職、医療関連職、事務職の従業員でリスクが高い傾向も見られた。一方、ワクチン接種回数が多いほど長期症状のリスクが下がるという、接種回数に応じた予防効果も確認されたという。
聞き取り調査では、予測できない症状の再燃や疲労、認知機能の低下によって仕事を続けることが難しくなった職員の声が集まった。体調が悪くても「働き続けなければ」という職場の空気に苦しみ、それが受診の遅れや症状の悪化につながった可能性があるとも報告書は指摘している。UCL医学部のキャサリン・ウルフ教授は、大学の発表資料で「このパンデミックが医療従事者にいまも与え続けている影響の大きさを示す研究だ」と述べた。報告書は、勤務時間の短縮や業務内容の調整、段階的な職場復帰といった対応や、身体・心理・作業療法へのアクセス改善、後遺症研究への予算拡充を求めている。
背景
英国では新型コロナの流行初期、医療従事者が防護具不足のなかで感染リスクの高い現場に立ち続けたことが問題として指摘された。NHSは公的医療制度として国民の医療を無料に近い形で提供する一方、慢性的な人手不足を抱えており、パンデミック下では現場の負担がさらに増したと指摘されてきた。ロングCOVIDという概念自体は比較的新しく、感染から3か月以上症状が続く状態を指す言葉として、パンデミックの経過とともに世界の研究機関が定義や実態の把握を進めてきた経緯がある。今回の報告書は、その中でも医療従事者という感染リスクが高く、かつ社会機能の維持に不可欠な職種に焦点を当てた点に特徴がある。医療従事者が体調不良のまま働き続けることは、本人の回復を遅らせるだけでなく、患者への感染リスクや医療の質にも関わりうるため、職場での支援体制の在り方が課題として浮かび上がった形だ。
日本にとっての意味
日本でも新型コロナの流行下で、医療従事者は院内感染のリスクと向き合いながら勤務を続けてきた。今回の英国の報告書が示す「4人に1人が長期症状を経験した」という数字は、日本の医療現場で同様の実態がどこまで把握され、どこまで支援につながっているかを考える一つの目安になる。日本では、労働災害としての認定や休業補償、勤務時間の調整といった職場対応が、感染症以外の慢性疾患と同じ枠組みで十分に機能しているかは、必ずしも明らかではない。英国の報告書が指摘する「体調不良でも働き続けなければという圧力」は、人手不足に悩む医療現場という共通の構造を持つ日本にも当てはまりうる論点であり、次の感染症流行に備えた職場の支援制度を考えるうえで、参考になる事例といえる。