レンブラント肖像画に英国が輸出停止、現地12月26日まで購入資金募る
英国のデジタル・文化・メディア・スポーツ省(DCMS)は、レンブラントが1657年に描いた「カトリーナ・フーフサートの肖像」に輸出停止措置を出した。評価額は7100万ポンドで、この措置の対象となった作品としては過去最高額だという。作品は2025年にクリスティーズを通じて非公開の取引で売却されており、このままでは国外に流出する可能性がある。
何が起きたのか
輸出停止の対象となった「カトリーナ・フーフサートの肖像」は、DCMSが「レンブラント晩年の傑作の一つ」と評する作品で、18世紀半ばから英国にあった。描かれているのは、アムステルダムのメノナイト(Mennonite、再洗礼派の一派)の共同体に属した裕福な女性カトリーナ・フーフサートで、当時は珍しく夫と別居していた人物とされる。肖像には彼女が飼っていたオウムも描かれており、このオウムは遺言状にも記載されていたという。
作品は2025年にクリスティーズでの非公開取引により所有者が変わった。これを受けてDCMSは、国内の美術館やギャラリーが同じ条件で作品を購入する機会を確保するため、輸出許可の発給を一時停止する「輸出停止(export bar)」の措置を取った。この措置は現地の12月26日にいったん期限を迎える。その後、所有者は推奨価格での買い取り提案を検討する期間として15営業日を与えられ、続いて9か月間の第二次延期期間が設けられる仕組みになっている。国内の買い手が現れなければ、作品は国外に持ち出される可能性がある。
芸術相のルース・マッケンジー氏は声明で「『カトリーナ・フーフサートの肖像』は何世紀にもわたり英国の文化的生活の一部だった」と述べ、この傑作が持つ規模、美しさ、歴史が、文化団体や資金提供者、篤志家、レンブラント愛好家に協力を呼びかける理由になると説明した。美術史家で本紙(The Art Newspaper)のコラムニストであるベンダー・グロヴナー氏は「こうした事案は、美術館がかつて持っていたような専用の購入資金の公共的な価値を思い起こさせる」と指摘している。
背景
英国では、国外に流出すれば文化的な損失になると政府が認めた美術品などについて、輸出許可の発給を一定期間留保し、国内の美術館などに買い取りの機会を与える制度がある。今回この作品に与えられた「ナショナル・トレジャー」という位置づけは、こうした輸出停止の対象になったことを指す行政上の呼び名であり、日本の国宝のような公式な指定制度とは別のものである点に注意したい。あくまで「輸出を一定期間止めて、市場価格で買い取る機会を作る」という時限的な仕組みであり、指定を受けたからといって国が所有権を持つわけではない。
この作品が輸出停止の対象になるのは今回が2度目である。2015年にもサザビーズを通じて海外の買い手に3500万ポンドで売却された際に輸出許可の審査対象となったが、そのときは買い手が輸出許可の申請を自ら取り下げ、代わりに2016年から3年間、カーディフのウェールズ国立博物館に作品を貸し出すという結果に落ち着いた。作品はそれ以前、1860年から北ウェールズのペンリン城に飾られていた。つまり英国の輸出停止制度は、必ずしも国内の美術館が資金を集めて買い取ることだけで終わるとは限らず、買い手側が輸出を諦めて国内に留め置く形で決着する場合もあるということになる。
日本にとっての意味
日本にも、重要文化財に指定された美術品などの国外への輸出や持ち出しを規制する制度がある。ただし日本の制度は、まず国が個別に「重要文化財」として指定した対象について輸出を原則として認めない、という指定ベースの規制に近いとされる。これに対し英国の輸出停止は、指定の有無にかかわらず、値打ちのある作品が輸出許可を申請した段階で審査にかかり、期限を区切って国内の買い手に購入のチャンスを与えるという、より市場取引に近い運用になっている点が対照的だ。指定されていない作品は基本的に自由に国外へ持ち出せるとされる日本の枠組みと比べると、英国の方式は流出のリスクがある作品をより広く捕捉できる一方、実際に買い取るための資金をその都度、公的機関や篤志家から調達する必要があるという課題も抱えている。グロヴナー氏が指摘する「専用の購入資金」の問題も含め、期限付きで巨額の購入資金を捻出できるかが問われる今回の英国の事例は、日本の美術館の収集予算のあり方を考える上でも参考になると言える。