エチオピア国民対話、大統領に権限集中する新制度を勧告
エチオピアで開かれていた国民対話が、現地の8月22日に閉幕し、首相の権限を大統領に一本化して大統領が実際に政権を率いる新しい制度(executive presidency)への移行を勧告した。この勧告が現地の10月に招集される議会に提出される可能性があり、実現すればアビィ・アハメド首相への権力集中がさらに進むとの懸念が出ている。勧告は採択が決まったものではなく、今後の議会審議に委ねられている段階だ。
何が起きたのか
この国民対話には4,000人を超える代表が参加し、数週間にわたってエチオピア国内の政治的緊張や民族間の対立、続く武力紛争について議論を重ねた。参加者は、現行制度を廃止し、首相の実権と儀礼的な役割にとどまる大統領の地位を統合した新しい大統領職を設ける案を、圧倒的多数で支持した。この案が採択されるかどうかは現地の10月に招集される議会の判断に委ねられている。
アビィ首相自身はこの対話には参加していなかったが、もし制度改正が実現すれば、与党が多数を占める議会によって選ばれる新しい大統領職の最有力候補になるとみられている。国民対話ではこのほか、民族を基盤とする政党への国家からの資金支援を減らし、より広く国民全体を志向する政党を優遇する案も勧告された。
支持派は、新制度によって特定の地域の代表としてではなく、全ての民族集団を代表する統一的な国家指導者が生まれると主張している。一方で反対派は、この改革が特定の個人に奉仕する体制に変質しかねないと警戒している。政治アナリストのベフェカドゥ・ハイル氏は、この改革によってアビィ氏が新たな大統領職に就き、権力が一つの職に集中する結果になりかねないと指摘した。この構想は、首相職から新設の大統領職に移ったトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の例と比較されている。
背景
この国民対話は、オロミア州やアムハラ州で続く武装勢力の反乱、そして2020年から2022年まで続き推定60万人が死亡したとされるティグライ州の紛争が再燃しかねないという懸念の中で開かれた。エチオピアは複数の民族集団を基盤とする連邦制を採っており、首相は州から選出された議会代表が就く仕組みで、アビィ首相自身もオロミア州選出の議会代表だ。支持派が新制度を「全民族の代表」として位置づける議論を展開した背景には、こうした地域代表制への不満があるとみられる。
しかし対話の枠組み自体にも限界があった。主要な野党勢力はこの対話をボイコットし、武装勢力は最初から議論の対象から除外された。野党の連合体「Caucus of Opposition Parties(反対派政党連合)」の議長を務めるメレラ・グディナ氏は、この対話が国に最も必要な持続的な平和と民主的な統治のいずれも保証できないと述べた。和平構築の専門家ナガ・テスファイエ氏も、今回の勧告が実効性を持つには、政府と武装勢力、野党が加わる交渉が並行して必要になると指摘している。
首都アディスアベバの扱いを巡っても議論は紛糾した。同市は憲法上自治権を持つとされる一方、周辺を取り囲むオロミア州は長年この都市とその周辺地域への権利を主張してきた。この論点を巡っては一部の代表が会議を途中退席するなど、地域・民族間の未解決の対立の根深さが改めて浮き彫りになった。それでも一部の参加者は、対立する国家観を持つ勢力が直接向き合う数少ない機会だったとして、対話自体を評価している。
アビィ氏は2018年から政権を率い、現地の6月にも与党が大勝する選挙結果を得たが、野党や国際的な監視団からは政党活動や報道への制約について批判が向けられてきた。今回の憲法改正構想が実現すれば、エチオピアの政治制度にとって数十年ぶりの大きな変化になり得るとされる。
日本にとっての意味
エチオピアはアフリカで人口が2番目に多い国とされ、紅海やナイル川上流域をめぐる地域情勢とも関わりが深いとされる。同国内の権力構造がどう変わるかは、周辺地域の安定や、日本企業の進出、JICA(国際協力機構)が手がける援助案件の相手先が誰になるかという実務的な問題にも関わってくる。仮に権力が一つの職に集中する体制に変わった場合、対話の相手が実質的に一人の指導者に絞られることになり、交渉や協力の枠組みも影響を受ける可能性がある。
より身近な接点としては、コーヒーが挙げられる。エチオピアは世界的なコーヒー豆の原産地・産地の一つとして知られ、日本の消費者が日常的に口にするコーヒーの一部もこの国に由来するとみられる。今回の制度論議そのものが直ちに貿易に影響するとは限らないが、オロミア州やアムハラ州での反乱、ティグライ州の紛争再燃といった今回の対話でも解決されなかった不安定要因は、農業生産や物流を含む同国経済の先行きに関わる要素であり、日本にとっても注視する価値がある。