スペイン地方博物館、青銅器時代の黄金の財宝を4分で盗まれる
スペイン南東部の町ビジェナ(Villena)の考古学博物館で、青銅器時代の黄金財宝の大半が盗み出された。犯人は窓から侵入し、わずか4分ほどで逃走したという。考古学者が1963年に発見して以来、町の宝として大切にされてきた財宝の多くが失われ、地元当局は衝撃を受けている。
何が起きたのか
現地時間の8月27日午前5時20分ごろ(日本時間の同日昼12時20分ごろ)、ビジェナの博物館で窓から侵入した何者かが警報を作動させた。犯人らはその4分後の午前5時24分ごろには、財宝の大半を持ち去って姿を消していたという。博物館の担当者はこの事件を「非常に素早く、非常にプロ的」だったと表現した。侵入直前には町のスポーツセンターでも警報が鳴っており、当局はこれが窃盗と関連していたかどうかを調べているが、確認には至っていない。
財宝は金の椀や瓶、腕輪など数十点からなり、銀や鉄、琥珀(こはく)でできた品も含まれる。初期の報道によれば、博物館に残されたのは銀の容器3点、腕輪1点、儀礼用とみられる杖の一部などわずかで、犯人は博物館が所蔵していた歴史的な王冠も現場に落としていったという。当局は盗まれた金の推計価値を約200万ドルとしているが、ビジェナ市議会の広報担当者ダビド・セルダン氏は「3000年前の埋葬品に値段をつけることは不可能だ」と語った。ビジェナ市長のフルヘンシオ・セルダン氏は取材に対し、打ちのめされて体が震えるほどだとしたうえで、財宝は町の遺産であり富そのものだと述べた。
背景
この財宝は「ビジェナの財宝」として知られ、紀元前1000年ごろの青銅器時代にさかのぼるとされる。1963年、町の建設工事の際に金の腕輪が偶然見つかったことをきっかけに、考古学者ホセ・マリア・ソレル氏によって財宝が発見された。以来、この財宝はビジェナの博物館の目玉として大切にされ、世界各地の展覧会にも出展されてきた。地方の小さな町の博物館が、ヨーロッパでも屈指とされる先史時代の黄金の一括発見品を守り続けてきたことになる。市長の言葉が単なる感傷ではなく重みを持つのは、この財宝が町の発見そのものであり、町のアイデンティティの一部として育まれてきたからだといえる。
財宝に含まれる2点の鉄製品は、隕石に含まれていた鉄から作られた可能性があるとする研究があり、西ヨーロッパで知られる最古の鉄の使用例とされる。
今回の事件は、欧州刑事警察機構(ユーロポール)が欧州各地の博物館を狙った窃盗事件についての報告書を公表した数日後に起きた。報告書は、侵入時に暴力的な手口が増えていること、高額かつ文化的に重要な品を狙う傾向が強まっていること、そして交流サイト(SNS)を通じて実行役が集められる例が出てきていることを指摘していたという。今年に入ってからも、フランスのラリック美術館からの高額な宝飾品・美術品の盗難や、イタリアの美術館からのルネサンス期の絵画盗難など、ヨーロッパの美術館・博物館を狙った事件が相次いでいる。昨年秋にはパリのルーブル美術館で、1億ドルを超える王冠の宝石が盗まれる事件も起きたばかりだ。
日本にとっての意味
今回の事件については、絵画の盗難とは性質が異なる点に注意が必要だ。盗まれた絵画は転売が難しく、押収されて所有者に返還される例もある。しかし金は溶かしてしまえば別の金属として売却でき、いったん溶かされれば作品としては永久に失われる。ビジェナの財宝が今後どうなるかは分からないが、金という素材そのものに、絵画とは異なる回収の難しさがあることは知っておく価値がある。
また、ユーロポールが指摘したというSNSを通じた実行役の勧誘は、日本で問題になっている「闇バイト」による強盗や特殊詐欺の構図と重なる面がある。海外の文化財を狙う犯罪組織が、国境を越えて実行役を集める手口を使い始めているとすれば、日本の治安を考えるうえでも他人事とは言い切れない。
さらに、ビジェナの財宝のように、地方の小さな町の博物館が世界的に貴重な文化財を単独で保管している例は日本にも存在する。大都市の大規模館だけでなく、地方の博物館の警備体制をどう強化していくかは、文化財を持つあらゆる国に共通する課題だといえるだろう。