セウタへ移民7万人急増、スペイン首相「モロッコ関与の証拠なし」
スペインのペドロ・サンチェス首相は、北アフリカの飛び地セウタに7万人を超える移民が現地時間7月30日から31日にかけて押し寄せた騒動について、モロッコ当局の関与を示す証拠はないと述べた。現地時間8月31日にラジオ局カデナ・セルの取材に答えたもので、事件の経緯は引き続き調査中とした一方、極右勢力と人身取引組織が偽情報を広めていると非難した。
何が起きたのか
サンチェス首相によると、事件前にスペインの情報機関や警察は政府に報告書を提出していたが、同30日・31日に実際に起きた規模や深刻さを示すものはなかったという。移民の大半はモロッコ側から泳いだり歩いたりして越境し、その後数時間のうちにモロッコへ戻ったとされる。ただし数千人はセウタにとどまっているとみられ、十分な住居がないまま過ごしている人も多いという。
スペイン中央政府はセウタに残る移民を3500人から7000人と見積もる一方、地元自治体は少なくとも1万人にのぼるとしている。人口約8万人のセウタでは住民が治安や衛生への懸念から抗議デモを繰り返し行っている。サンチェス氏は、移民の入国資格審査のために近く6000人分の受け入れ施設を用意すると説明し、モロッコへの送還が可能かどうかも見極めるとした。あわせて、セウタの対応費用として1億6800万ユーロ(約1億9500万ドル)の追加財政支援を発表した。保守系野党と極右勢力は、未成年を含め入国した移民全員の送還を求めており、この問題はスペイン国内で大きな政治争点になっている。
背景
セウタは地中海の入り口、アフリカ大陸北端に位置するスペインの飛び地で、陸ではモロッコとのみ国境を接する。ヨーロッパへの玄関口として長年、非正規移民の集中地点になってきたとされる。今回サンチェス氏が特に否定したのは、モロッコが移民の流入を意図的に容認し、スペインへの政治的圧力の道具として使ったのではないかという見方だ。背景にあるのは西サハラをめぐる対立で、この地域は現在モロッコが実効支配しているが、アルジェリアが支援する独立派組織ポリサリオ戦線が領有権を主張しており、両国関係の緊張要因になってきたとされる。
サンチェス氏はこの疑惑を退け、危機への対応は不信ではなく協力によって進めるべきだと述べた。あわせて、スペイン最高裁が海路で到着した非正規移民の扱いについて出した判断を悪用する形で、極右勢力と人身取引組織がインターネット上で誤った情報を広めたと指摘した。具体的には、泳いでセウタに到達した移民はモロッコへ送還できないという趣旨の虚偽の主張が拡散したという。首相はさらに、ロシアやイスラエルに関連するとされるソーシャルメディアのアカウント網や、国際的な極右運動が、移民問題を利用してスペインや欧州の分断を深めようとしているとの疑いにも言及した。
日本にとっての意味
欧州の移民をめぐる政治は、地中海を渡る難民の映像がニュースで流れる程度で、その裏にある外交上の駆け引きまで日本で報じられることはほとんどない。今回の一件は、移民の流入そのものが二国間関係の圧力手段として疑われるという、地中海に面した国々特有の力学を示している。スペインとモロッコは地理的に隣接し、西サハラの領有権問題を通じて外交的に深く結びついており、移民管理は単なる人道問題にとどまらず外交カードとして扱われかねない案件になっている。
日本はこうした陸続きの移民圧力とは無縁で、この出来事に直接の接点は乏しい。ただし、真偽不明な情報がSNSを通じて政治対立を煽るという構図は、選挙や社会的緊張が高まる場面で日本を含むどの国でも起こりうる問題であり、他国の事例として知っておく価値がある。