欧州の記録的猛暑と干ばつ、穀物生産に打撃 EU経済にも影響見込み
今年(2026年)の記録的な熱波と干ばつが、欧州各地の農作物に打撃を与えている。欧州委員会のデータでは、EUの穀物生産量は今年、多くの加盟国で前年を下回る見込みだ。国連食糧農業機関(FAO)は、世界の食料品価格が熱波とエネルギー価格の影響で2023年初め以来の高さに達していると指摘している。
何が起きたのか
欧州委員会のデータによると、EU26か国(データ不足のマルタを除く)のほとんどで、小麦や大麦などの穀物生産量が2025年から2026年にかけて減少する見込みだ。中でもフランスの落ち込みが大きく、生産量は前年より約800万トン減る見通し。ドイツも約400万トン減る見込みで、EU域内で生産量の減少が見込まれていないのはブルガリアだけだという。
単位面積あたりの収量(単収)で見ても状況は厳しい。欧州委員会の統計では、スロバキア、オーストリア、ハンガリーで1ヘクタールあたり1トン以上の収量減が見込まれている。EUの共同研究センター(JRC)は、フランス、ドイツ南部、イタリア北部・中部、ハンガリーなどで局地的な不作が起こりうるとの見通しを示した。一方、ポルトガルでは灌漑作物が持ちこたえたことで、単収の増加幅が加盟国中で最も大きくなる見込みだといい、対照的な結果も出ている。
金額に換算した試算もある。研究機関Energy & Climate Intelligence Unit(ECIU)は、6月と7月の穀物生産予測の変化と各国の収穫時価格を掛け合わせ、現地6月の記録的熱波の影響で欧州全体の穀物生産の見込みが20億〜23億ユーロ分下方修正されたと試算した。損失額の86%はフランス、ドイツ、ハンガリー、スペインの主要生産国に集中しているという。トリオドス銀行の分析では、今夏の異常気象によってEU全体の国内総生産(GDP)が今年、約1%、金額にして約1800億ユーロ押し下げられる可能性があるとされる。
EUを離脱した英国でも状況は厳しい。ECIUによれば、現在の傾向が続けば、2026年の穀物・油糧種子の平均収量は、詳細な統計が残る1984年以降で最悪の収穫になる見込みだという。英国政府傘下の農業・園芸開発委員会(AHDB)の調査では、大麦の収量が前年比15%減、オーツ麦が14%減、小麦が6%減となる見通しが示されている。
作物ごとの被害も報告されている。オランダではジャガイモが小ぶりになり、フランスではニンジンの収穫量が落ち込んだ。イタリアでは水田が干上がり、地中海沿岸の一部ではオリーブ畑が焼けた。フランスのトウモロコシ生産は今年、1980年以降で最低の水準に落ち込む見込みだという。
背景
今回の熱波や干ばつは気候変動によって悪化したとされる。西欧を襲った現地6月の熱波について、急速気候アトリビューション研究(rapid attribution study、特定の異常気象に地球温暖化がどの程度寄与したかを分析する手法)は、50年前ならほぼ起こり得なかった規模だったと結論づけている。西欧にとって観測史上最も暑い6月だったという。
ドイツの作物栽培研究機関ユリウス・キューン研究所のティル・ファイケ教授は、ドイツやオーストリアをはじめ欧州各地が長期の乾燥と記録的な熱波の組み合わせに見舞われたと説明する。牧草地が乾燥して家畜の飼料が不足し、家畜用の重要な飼料作物であるトウモロコシの収量も落ち込んでいるという。ファイケ氏は「長期的には、農業は熱波や干ばつだけでなく、長雨などより極端な気象条件にも適応していく必要がある。気候変動への適応策に、万能の解決策は存在しない」と話す。
ここで注意したいのは、生産量の減少と単収(単位面積あたりの収穫量)の減少は別の指標だという点だ。生産量は作付面積の変化にも左右されるため、両方の統計を見て初めて、天候が収穫にどう影響したかが見えてくる。また今回の不作要因は熱波と干ばつだけではない。ホルムズ海峡での肥料供給の目詰まりや、燃料価格の高騰も今年の農業生産に影響したとされている。
日本にとっての意味
今回のデータの多くは欧州委員会やECIUなどによる見込み・試算であり、実際の収穫が確定した数字ではない点には留意したい。それでも、FAOが指摘する熱波とエネルギー価格の高騰による世界食料価格の上昇は、日本が輸入する小麦や油脂類の調達コストにも波及しうる。日本が輸入する小麦の大半は米国やカナダ、オーストラリアからとされ、欧州からの直接輸入は限られるが、国際的な穀物相場は各国の需給を通じて連動するため、欧州の不作は間接的に日本の輸入価格を押し上げる要因になりうるとみられる。また、地中海沿岸で被害が伝えられたオリーブは、日本が輸入するオリーブオイルの産地の一角でもあり、産地の不作は店頭価格に反映される可能性がある。欧州の熱波・干ばつは、日本人が普段目にする気象ニュースの向こう側で、輸入食品の値付けという形で静かに日本にも届いていると言える。