英国、気候資金を融資に切り替えバス運賃補助に転用する案
英国のバーナム首相が、途上国向け気候資金の一部を無償の助成から融資に切り替える案を示している。これにより浮く約4億ポンドを、英イングランドのバス運賃に上限を設ける施策の財源に充てる方針だという。開発援助の分野からは、この案が途上国を「犠牲にする」ものだとの批判が出ている。
何が起きたのか
シンクタンク、Center for Global Developmentの研究員ユアン・リッチー氏が9月3日付(英国時間)でClimate Home Newsに寄稿し、この案の問題点を指摘した。英国政府は今後3年間で約60億ポンドの気候資金を、政府開発援助(ODA)予算から拠出すると約束している。新たな融資の相手先として有力視されているのが、熱帯林を守る国に資金を配るための新しい国際基金「TFFF」(Tropical Forest Forever Facility)だという。
リッチー氏の指摘の核心は単純な計算にある。融資への切り替えで政府支出を減らせるなら、その分はODAとしてカウントされる額も減る可能性が高い。つまり英国政府は、4億ポンドの節約と60億ポンドの気候資金公約を同時に達成することは難しいというのがリッチー氏の見立てだ。開発団体側からは、この案が途上国を犠牲にするものだという批判の声が上がっているという。
背景
ODAとは、先進国政府が途上国支援のために拠出する公的資金のことで、その集計ルールを定めているのが経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)である。日本を含む主要な先進国が加盟しており、ある資金拠出がODAとして数えられるかどうかは、このDACのルール次第だ。現行の解釈では、TFFFのように政府が出資し合う国際的な組織への融資は、金利が5%を下回らなければODAとして算入されないとみられる。
TFFFは、各国政府や民間投資家から資金を集め、それをリスクが高くその分リターンも高い資産で運用し、得られた収益を熱帯林保護の対価として支払う仕組みの新しい基金だ。COP30の開催地ベレンで発足式が行われている。
ところが現在検討されている案では、想定される利回りは米国の借入コストに準じた約5.2%とされ、これはODAとして算入される基準の5%を上回ってしまう。英国がそれより低い金利で貸せば、その差額は将来の財政赤字に上乗せされる。ODAの算入は全か無かではなく、5%をわずかに下回る金利であれば一部だけが算入される仕組みだという。
ここにはもう一つのねじれがある。リスクが本当に高いのであれば、TFFFへの融資をより多くODAとして計上する根拠になり得るが、同時に、この切り替えが政府の節約になるという主張は揺らぐ。融資が財政赤字に数えられないのは全額の返済が見込める場合の話で、損失の恐れが相応にあるなら、取引の少なくとも一部は赤字側に計上されることになるからだ。
TFFF自身の試算では、元本が毀損する確率は約1%にとどまるとされるが、この試算の精度を疑う分析者もいるという。リッチー氏は、こうした会計基準が存在する目的は、政府が政治的な都合で支出の実態を分かりにくくすることを防ぐためだと述べている。
日本にとっての意味
日本もDACの加盟国であり、TFFFへの融資をどう算入するかというDACの判断は、英国だけでなく日本にも直接関わる問題だ。日本のODAは円借款、つまり融資による支援を軸に組み立てられてきたとされ、無償資金協力と融資の使い分けは長年の論点になってきた。COPの場などで「気候資金〇〇億円」と発表される数字も、それが無償なのか融資なのかによって、拠出国の実質的な負担も、支援を受ける側にとっての意味も大きく変わる。
今回の英国の事例は、援助の看板を掲げた枠組みが、実際には国内の予算のやりくりに使われかねないという構造を具体的に示している。日本も熱帯林由来の産品を輸入する側であり、TFFFのような枠組みの実効性は無縁の話ではない。気候資金の総額だけでなく、その中身が無償か融資か、そしてどの会計基準で数えられているかにまで目を向けることが、支援の実態を見極める手がかりになる。