オックスフォード大の博物館、ナガ族の遺骨39点を返還へ
イギリスのオックスフォード大学が所有するピット・リバーズ博物館が、インド北東部ナガランド州の先住民族ナガの遺骨39点を返還すると発表した。頭蓋骨を中心とするこれらの遺骨は20世紀初頭に植民地行政官らが収集したもので、11月に引き渡され、年内にナガランドへ戻る見通し。同博物館としては過去最大規模の人骨返還になるという。
何が起きたのか
返還されるのは、ピット・リバーズ博物館が保管するナガの遺骨のうち39点。現地時間の2026年2月、ナガ族39団体からなる連合組織「フォーラム・フォー・ナガ・リコンシリエーション(Forum for Naga Reconciliation)」が、博物館が保管する40点の返還を大学に申請した。オックスフォード大学は文化財返還に関する既定の手続きに沿って審査し、現地時間の2026年7月に大学評議会(Oxford University Council)が返還を承認した。申請された40点のうち1点は、ナガ族の遺骨であるという明確な来歴が確認できなかったため返還対象から外された。
博物館のローラ・ヴァン・ブルックホーヴェン(Laura Van Broekhoven)館長は、米紙ニューヨーク・タイムズに対し、今回の引き渡しを「ナガ族全体による癒やしと結束の運動」と表現したという。博物館は2020年に人骨の展示を全て取りやめており、それ以降、フォーラム・フォー・ナガ・リコンシリエーションの「Recover, Restore and Decolonise」チームや、各部族の「ホホ」と呼ばれる伝統組織、長老、教会、地域社会と協議を重ねてきたとしている。現地時間の2025年6月には、ナガ族の指導者や研究者20人からなる代表団が博物館を訪れて保管状況を確認し、「数十年もかかってしまい申し訳ないが、私たちは今、あなたたちを取り戻し、連れ去られたふるさとへ帰すためにここにいる」とする「ナガ・オックスフォード返還宣言」がまとめられた。
背景
ピット・リバーズ博物館は、世界最大規模のナガ族関連資料の収蔵で知られる。博物館の説明によれば、最初のナガ族の遺骨は100年以上前、インド行政官で人類学者でもあったジョン・ヘンリー・ハットン(John Henry Hutton)から寄贈された。遺骨の多くは、ハットンと、もう一人の人類学者ジェームズ・フィリップ・ミルズ(James Philip Mills)によって、1910年から1940年にかけてオックスフォードへ持ち込まれたものだという。
当時のインドはイギリスの植民地統治下にあり、遺骨や資料の収集は、統治と学術調査が一体化した時代の産物とみられる。2026年に入り、英紙ガーディアンの調査報道が、イギリス国内の博物館や大学に保管される人骨の総数の大きさを明らかにしており、政治家や研究者から批判が上がっていたことも、今回の返還を後押しした可能性がある。
日本にとっての意味
植民地期や研究目的で持ち去られた遺骨の返還を巡る問題は、日本にとっても遠い話ではない。北海道大学をはじめとする国内の大学は、明治期以降に発掘・収集されたアイヌ民族の遺骨を保管しており、近年は当事者団体からの返還請求や訴訟を経て、一部が返還されている。琉球(沖縄)の遺骨についても、京都大学が戦前に持ち出したとされる遺骨を巡り返還を求める動きが続いている。
今回のピット・リバーズ博物館の対応で注目すべきは、大学側が一律の内部規則だけで判断するのではなく、当事者団体との数年にわたる協議、代表団の招へい、共同宣言の作成という段階を踏んだ点だ。来歴が確認できない遺骨については返還対象から外すなど、根拠に基づいた線引きも行っている。こうした手続きの積み重ねは、遺骨返還という感情的にも制度的にも難しい課題に、海外の大学がどう向き合ってきたかを示す具体例として、日本国内の同様の議論にとって参考になりうる。