IAEA理事会がシリアの核不遵守認定を解除、過去の核活動めぐる疑問は解消
シリア国営メディアによると、IAEA(国際原子力機関)の理事会は現地時間9日、シリアの核不遵守認定を解除する決議を採択した。旧アサド政権時代の未申告の核物質・施設をめぐり、技術的・法的な要件が満たされたことを受けた措置だという。シリア原子力委員会は、平和目的での原子力利用に向けた協力拡大の道が開かれたとしている。
何が起きたのか
ウィーンで開かれたIAEA理事会の会合は現地7日に始まり、グロッシ事務局長は開会あいさつで「歴史的な突破口」があったと述べた。シリアの新政権が必要な情報を提供し、デリゾール(Deir ez-Zor)州の施設などへの立ち入りを認めたことで、過去の核活動をめぐって残っていた保障措置上の疑問を解消できたという。
その2日後の9日、理事会はシリアの核不遵守認定を解除する決議を採択したと、シリア国営テレビが伝えた。シリア国営通信SANAによると、シリア原子力委員会は声明で「この戦略的成果は、シリアが自信と能力をもって1年半にわたり進めてきた、国内および外交面での集中的な取り組みの結果だ」とコメントした。
委員会は、国際基準の順守と全面的な透明性の確保への意欲を改めて示す一方で、平和目的で原子力技術を開発する主権的権利は維持されると強調した。声明によれば、今回の解除は、シリアが自国内で核科学を放射線医学や農業、科学研究といった平和目的に利用・発展させる権利を、包括的保障措置協定の下で正式に再確認するものだという。委員会は、検認作業への全面的な協力や、発見された物質を保障措置下に置いたことを挙げ、今回の決議は自国の姿勢が国際的に認められたものだと主張している。今後は研究助成や研修、他国との専門知見の交換なども見込めるとしている。
この決着に至る過程では、8月にも動きがあった。グロッシ氏は現地8月18日にダマスカスで、シリア国内には旧アサド政権時代の核物質が数トン残っていると述べ、査察官が現地への立ち入りを認められたことを明らかにした。加盟国に配布され報道でも伝えられたIAEAの報告書は、旧政権が包括的保障措置協定の下で申告すべきだった核物質や施設、活動の一部を申告していなかったと指摘していた。シリア原子力委員会トップのムダル・アルアカレ氏も8月の時点で、不遵守案件の解消と平和目的の原子力利用拡大に向けて作業を進めていると述べていた。
背景
IAEAの保障措置とは、核拡散防止条約(NPT)に加盟する非核兵器国について、自国内の核物質や施設に未申告のものがないかをIAEAが検認する仕組みを指す。加盟国は包括的保障措置協定に基づき、保有する核物質や関連施設をすべて申告する義務を負う。この義務を果たしていないとIAEA理事会が判断した場合に下されるのが不遵守認定であり、一般には国連安全保障理事会にも報告される重い措置とされる。
不遵守認定は特定の政権にではなく国家そのものに対して付くという。そのため政権が交代しても案件は引き継がれ、後継の政府が過去の未申告を清算しない限り解除には至らないとされる。今回のシリアのケースは、新政権が旧政権期の活動を申告し、現地への立ち入りを認め、発見された物質を保障措置下に置くという手続きを経て、理事会が認定解除に踏み切った例といえる。
日本にとっての意味
日本はIAEAへの拠出国であると同時に、原子燃料の再処理を行う非核兵器国として、自国内で多くの保障措置検認を受ける立場でもある。核不拡散をめぐる制度がどのように運用され、どうすれば疑義が解消されるのかは、日本の原子力政策や外交にとって遠い話ではない。
不遵守認定が実際に解除された今回の事例は、北朝鮮やイランの核問題を考える際の材料になり得る。ただし手続き面での参考にはなっても、状況がそのまま当てはまるわけではない。シリアの案件は、新政権が旧政権の未申告活動を自ら開示し協力したことで解決した点が特徴であり、現在の政権が自国の活動そのものを問われている北朝鮮やイランとは前提が異なる。今回の解除は、不遵守案件が政治的にも技術的にも「終わり得るもの」であることを示した点に意味がある。