気候・災害

ガンビアの稲作地帯、海水侵入で伝統の土手も限界に

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西アフリカ・ガンビアの河口沿いの村で、住民が毎年、粘土と泥で堤防を築き、稲田への海水の侵入を防ごうとしている。しかし近年は海面上昇と雨のパターンの変化により、この昔ながらの防御が追いつかなくなってきた。塩害で放棄された田んぼが増え、内陸の高台へ移る農家も相次いでいる。

何が起きたのか

ガンビア西部、ビンタン・ボロン河口に面したキアン・ジファロン村では、かつて稲田が河口沿いに約5キロにわたって途切れなく続いていた。しかしこの10年、多くの農家が海岸沿いの田んぼを放棄し、内陸へ移り住んでいる。塩害を受けた稲は葉が黄色くなり、収穫できても籾が軽く空っぽになってしまうという。

村の開発委員会に携わるトンボン・バロウ氏は、籾がほとんど空になり、塩のせいで使い物にならなくなると話す。ベテラン農家のジョニ・キンテ氏とママ・ンジー氏は、塩害による不作が続いたため8年前に田んぼを手放した。キンテ氏は子どもの頃から母たちと一緒にこの田んぼを耕してきたといい、「今はもう使えない」と語る。輸入米に頼らざるを得なくなった家庭も多く、耕作地を失った分、周辺の森林を切り開いて畑にする動きも広がっているという。

一方、キアン・ジファロンから約22キロ離れたテンダバ村では、国連開発計画(UNDP)が支援する沿岸レジリエンス事業でコンクリート製の堤防が造られ、海水の侵入が抑えられて稲の収穫が改善したと住民は話す。キアン・ジファロンの住民は、この成功例をうらやましそうに見ているという。

背景

ガンビアでは長年、村ごとに労力と資金を出し合い、粘土と泥でできた季節限定の土手を毎年築き直すことで、雨季に川からの淡水を保ちつつ海水を遮ってきた。一方、持続可能な開発の専門家カウス・ジャメ氏は、恒久的なコンクリート堤防がかえって塩分濃度を高める場合があると指摘する。同氏によれば、コンクリート堤防の建設は多くの場合、高濃度の塩害を悪化させてきた。海水が構造物の下を通り抜け、時間をかけて稲田を傷めるという。

ジャメ氏によれば、キアン・ジファロン周辺の高い塩分濃度には過去の人為的な介入も関係しているとみられる。河口では長年、潮の流れを遮るため土のうが使われていたが、2005年に撤去された後も、自然な水の循環への影響が残っているという。

ジャメ氏はまた、湿地の生態系への理解が乏しい重機保有会社に堤防建設が発注されがちな点も問題視する。「これらは土木工事であると同時に、生態系でもある」とジャメ氏は話す。同様の失敗例はガンビア国内だけでなく、隣国セネガルやギニアビサウでも見られるという。

ジャメ氏は、堤防を築く位置が重要だと強調する。最高潮位線と稲田の間に置くべきで、海水が及ぶ範囲の内側に建ててしまうと広い農地が使い物にならなくなるという。その上で、キアン・ジファロンのような村が代々続けてきた、粘土と泥による季節限定の土手を評価している。自然な水の出入りを妨げず、雨季には淡水を保てる方法だ。加えて、セネガルやギニアビサウで導入が進む、潮の周期に合わせて開閉できる「ゲート付き堤防」を有望な代替策として挙げている。

農業省はこうした状況を受け、低地や灌漑地に適した塩に強い稲の品種を2種類、農家に配布している。バロウ氏によれば、新しい品種は3カ月で収穫でき、雨の降り方が不安定になる中でほかの作物より頼りになるという。

日本にとっての意味

ガンビアの事例は、海面上昇と塩水侵入が沿岸の食料生産を直接脅かす具体的な姿を示している。日本でも、地盤沈下や高潮対策としての堤防や水門は各地の水田地帯にあり、コンクリート構造物が水の流れを変え、思わぬところで塩分や土砂の滞留を招く可能性は共通の論点になり得る。ガンビアの専門家が指摘する「堤防の位置」や「開閉できる構造」の重要性は、日本の河口部の稲作地や干拓地の防災設計を考える上でも参考になる視点だろう。

また、稲作は日本の主食を支える作物であり、気候変動による塩害や干ばつは遠い国の話ではなく、世界各地の稲作地帯で並行して起きている課題でもある。塩に強い品種の開発・普及は日本でも進められているとされる分野であり、ガンビアのような現場での実践は、品種改良や適応策の効果を測る材料として関心を持つ価値がある。