トルコの先史遺跡で「豹に乗る人」の彫像、用途は謎のまま
トルコ南東部のカラハン・テペ遺跡で、2026年夏の発掘調査で、豹の背に人が乗った姿を彫った約1万1000年前の彫像が見つかった。高さは約70センチ。文字が発明されるよりはるか前に作られたものだ。トルコ文化観光相は声明で「これまで出会ったことのない、複合的な造形だ」と述べている。
何が起きたのか
彫像は、円形の建造物の壁沿いに設けられた台の上に置かれた状態で発見された。この建造物は直径3メートルほどで、床には平らな石が敷かれていた。トルコ文化観光相のメフメト・ヌリ・エルソイ氏は、ブルガリア通信社が伝えた声明で、これまで例のない1万1000年前の像が見つかったと発表した。
考古学者たちによれば、人が動物にまたがる姿の彫像がこの遺跡で見つかったのはこれが初めてだという。カラハン・テペでは2021年にも、逆に人が豹を背負う姿の彫像が出土しており、現在はシャンルウルファ博物館に収蔵されている。今回の発見と合わせ、豹をモチーフにした彫像が2例そろったことになる。
ドイツ考古学研究所のイェンス・ノトロフ氏は、豹がこの地域でよく見られた肉食獣であり、熟練した狩人にとっても手強い獲物だったはずだと指摘する。そのうえで、人が豹を乗りこなしているように見えるこの彫像について、「力の象徴として読み解ける」との見方を示した。トルコのドクズ・エイリュル大学のエルギュン・ラフリ氏は、この2体の豹の彫像がいずれも抽象的な様式で作られており、ヨーロッパ大陸の先史時代の壁画に通じるものがあると指摘した。そのうえで、図像表現の共通性を示す手がかりになりうると述べている。
背景
カラハン・テペは紀元前1万年紀に築かれたとされる遺跡で、約35キロ離れた場所には、世界最古級の神殿の一つとされるギョベクリ・テペがある。ギョベクリ・テペはストーンヘンジの2倍の古さがあり、抽象的な文様やライオン、キツネ、ガゼル、鳥といった野生動物の彫刻が施された石柱で知られ、2018年にユネスコの世界遺産に登録された。建造時期は紀元前9600年から紀元前8200年ごろとされる。
ギョベクリ・テペの発掘は1990年代から続くのに対し、カラハン・テペの発掘が始まったのは2019年と比較的新しい。ロサンゼルス・カリフォルニア大学名誉教授のエリザベス・カーター氏は、ギョベクリ・テペの建物内ではベンチの上に置かれた動物の彫像がすでに見つかっていたが、人が動物にまたがる図像の例は知らないと述べている。今回の発見の珍しさを裏付ける証言だ。
こうした先史時代の建造物は儀礼的な性格をもつと考えられているものの、詳細は分かっていない。考古学者ゲイリー・ロレフソン氏はかつて、先史時代の文脈から象徴の意味を読み取ろうとするのは徒労に終わると語ったことがある。発掘を率いるネジミ・カルル氏は、人々が定住生活に移るにつれて、人間の姿を描いた作品が増えていったと説明しており、狩猟採集から定住への移行が、人間そのものを世界の中心に置く意識の変化と結びついていた可能性を指摘している。
日本にとっての意味
文字を持たない社会が、なぜこれほど手の込んだ像を作ったのかという問いは、日本の読者にとっても身近な謎と重なる部分がある。日本にも縄文時代の土偶という、用途がはっきりしないまま作られ続けた先史時代の造形の伝統がある。両者に直接のつながりはないものの、文字以前の社会が象徴的な造形物を作り、その意味を後世が推測するしかないという構図は共通していると言えそうだ。
観光面でも接点はある。ギョベクリ・テペはすでに世界遺産として海外からの旅行者を受け入れており、2021年に出土した豹の彫像はシャンルウルファ博物館に収蔵されている。今回の新発見も、いずれ現地の博物館で公開される可能性があり、トルコ南東部を訪れる際の見どころの一つとして知っておく価値がある。