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パリの美術館でティントレット、フランス初の本格回顧展

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パリのジャックマール=アンドレ美術館で、16世紀ヴェネツィアの画家ティントレットの企画展「タイムレス・ティントレット(Timeless Tintoretto)」が現地の9月11日に開幕した。フランスでティントレットの画業全体を通して紹介する展覧会は、これが初めてだという。会期は現地の2027年1月24日まで。

何が起きたのか

展覧会は約40点の作品からなり、神話画や宗教画、肖像、素描を主題ごとにたどりながら年代順に並べる構成だという。ミケランジェロの彫刻への関心をうかがわせる作品も含まれ、かつて音楽家デヴィッド・ボウイが所有していた祭壇画《アレクサンドリアの聖カタリナと天使》(1560〜70年頃)も並ぶ。

貸与作品はイタリア国外の個人コレクションや、ウィーンの美術史美術館、フランスの地方美術館であるカーン美術館などから集まった。中でも、ヴェネツィアのアカデミア美術館が所蔵する《動物の創造》(1550〜53年)の貸与は特筆すべきものだとされる。この作品は大規模な修復が完了したことを記念する展覧会の一環として、現地の8月30日までアカデミア美術館で公開を終えたばかりだった。

共同キュレーターのネヴィル・ロウリー氏は「専門家には知られているが、一般にはあまり知られていないもう一つの側面がある」と語る。ロウリー氏はまた、「ティントレットを見たいなら、ヴェネツィアに、サン・ロッコ同信会館やドゥカーレ宮殿だけでなくアカデミア美術館にも行かなければならない」とも述べ、今回の貸与には象徴的な意味でも意義があるとしている。

会場となるジャックマール=アンドレ美術館は規模が大きくなく、ティントレットの作品には非常に大きなものが多い。貸与交渉で主な障害になったのは作品の脆弱さよりも、その画面の大きさと会場の規模の差だったという。オルレアン美術館からの《男の肖像》(1560〜75年頃)は、輸送に耐えられるよう修復処置を受けたうえで貸し出された。

展覧会の最後の部屋では、ルーヴル美術館所蔵のティントレットの自画像(1588年頃)と、それを1854年に模写したエドゥアール・マネの作品が並べて展示される。さらにアングルが1848年に描いた《ティントレットの工房のアレティーノ》も加わり、19世紀フランス絵画がティントレットにどう向き合ったかを示す構成になっている。

背景

ティントレットは16世紀ヴェネツィアで活動した画家で、生前から年上の巨匠ティツィアーノとの比較にさらされ続けたと伝えられる。今日の展覧会でも、ティツィアーノを主役とする物語の脇役として扱われることが多いという。今回の展示は、その構図から距離を置く狙いがあるとされる。

一方でフランスの画家たちは、フラゴナールからセザンヌまで世代を超えてティントレットを敬愛してきた。物語を劇的に描く手法はジェリコーやドラクロワに影響を与え、アングルは魅了されつつも、構図の調和という規則を無視するティントレットの流儀に戸惑ったとされる。

ジャックマール=アンドレ美術館の収集自体も、ヘンリー・ジェイムズやトーマス・マン、マルセル・プルースト、ジョン・ラスキンらがヴェネツィアに熱をあげた19世紀という時代に形づくられたものだという。同館にはかつてティントレット作とされていた作品もあったが、後に周辺の画家の手によるものと判定されている。

日本にとっての意味

この展覧会について、日本の美術館への巡回は伝えられていない。大型の巡回ブロックバスター展のような形で日本の大手メディアに取り上げられる可能性は低いが、内容自体は日本の読者にとって遠い話ではない。日本で親しまれている印象派や近代フランス絵画の系譜をたどると、その手前に16世紀ヴェネツィアの画家ティントレットがいたという構図が見えてくる。

セザンヌは近代絵画の父と呼ばれることがある。その父がさらに仰いだ先がティントレットだったとすれば、日本の美術館で頻繁に紹介されるフランス近代絵画の源流は、実はヴェネツィアにあったことになる。

展覧会が示すように、ティントレットの本領はヴェネツィアのサン・ロッコ同信会館やドゥカーレ宮殿、アカデミア美術館といった現地の建物に刻まれており、そこへ足を運ばなければ見られないという指摘がある。ヴェネツィアを訪れる機会がある読者にとっては、印象派の源流にある画家を訪ねる手がかりになりそうだ。