セルビアの大学生ら「学生リスト」結成、10月総選挙に参入
セルビアの大学生を中心とする運動が、10月に予定される議会選挙に向けて独自の候補者リストを提出した。長期にわたる反政府デモの担い手が、街頭から投票用紙へと活動の場を広げた形だ。ブチッチ大統領と与党は、就任以来で最大級の逆風にさらされている。
何が起きたのか
現地時間の9月14日、セルビアの学生運動は「学生リスト・学生は勝つ」と名付けたリストを共和国選挙管理委員会に提出した。数千人の支持者が首都ベオグラードの中心部から委員会本部まで行進し、学生たちはここ数日で集めた署名の入った箱を運び込んだという。
このリストには、大学教授や音楽家、元スポーツ選手らが名を連ねる。筆頭候補はスルジャノビッチ氏で、元バスケットボール選手のデヤン・ボディロガ氏、元中央銀行総裁のデヤン・ショシュキッチ氏らも含まれる。専門職や著名人が中心の顔ぶれとなっている。
選挙は現地の10月25日に実施される。ブチッチ氏は現地時間の9月8日に議会解散と前倒し選挙の実施を発表し、自身は現地の9月27日に大統領職を辞任して与党セルビア進歩党(SNS)の選挙戦を率いると表明した。SNSはブチッチ氏を首相候補として擁立し、「アレクサンダル・ブチッチ、統一セルビア」と名付けたリストの筆頭に据えている。同党が勝利すれば、ブチッチ氏は大統領から首相へと転じる考えだ。
背景
今回の学生運動の起点は、現地時間の2024年11月1日にノヴィサドの鉄道駅で起きた屋根崩落事故だ。この事故で16人が死亡した。学生たちは、駅の改修工事をめぐる汚職の疑いに当局が向き合っていないとして責任追及を求め、以来ほぼ2年にわたってデモを続けてきた。デモは時に数十万人規模に膨れ上がり、ブチッチ氏の政権基盤を揺さぶってきた。
ブチッチ氏は2012年に政権の座に就いて以来、大統領・首相の職を歴任しながら実質的に国政を主導してきた。学生運動がこれまで街頭での抗議にとどまっていたのに対し、今回のリスト提出は、運動そのものが政治の当事者として選挙に加わる転換点だと言える。著名人を並べた「学生リスト」が既存の政治勢力とどう競うかが焦点となる。
日本にとっての意味
この動きは、日本の読者にもいくつかの点で参考になる要素を含んでいる。まず、元バスケットボール選手や音楽家といった著名人を候補者に据える手法は、日本でもタレント候補が選挙戦の話題を集める構図と重なる。政策論争以前に、知名度が有権者への訴求力を持つという点は共通している。
より本質的なのは、街頭での抗議運動が政党や候補者リストという形に転化した点だ。日本では市民運動やデモが直接、独自の候補者リストを掲げて選挙に参入する例は多くない。セルビアの学生たちが約2年にわたる抗議の末に選挙という制度内の手段へ踏み出したことは、権威主義的とされる長期政権への対抗策の一つの形として注目に値する。