制裁下のイラン現代アート、ロンドンで約200点集め合同展
イランの現代アートを紹介する大規模な合同展が、ロンドンのアブ・アンバル・ギャラリー(Ab-Anbar Gallery)で現地の9月19日から26日まで開かれる。イラン国内の約20軒のギャラリーやアートスペースが参加し、約100人の作家による約200点が一堂に会する。制裁や戦闘、経済的な圧迫でイランの美術界が孤立を深めるなか、若手作家に海外での発表機会を与える狙いがある。
何が起きたのか
展覧会名は『A Present Tense: Contemporary Artists Living and Working in Iran』(イランで暮らし、活動する現代作家たち、の意)。イラン国内で活動する現代作家の作品を海外の観客にまとめて紹介する、めったにない機会だと主催者は説明する。
参加したイランのギャラリーやアートスペースは約20軒にのぼり、それぞれの作家の作品を持ち寄った。作品の価格は約200ポンドから3000ポンドの幅に慎重に設定されている。一部の収集家だけでなく幅広い層が購入できるようにするとともに、参加した各ギャラリーが販売の機会を得られるよう配慮したという。
企画は2025年、アブ・アンバル・ギャラリーの創設者であるサルマン・マティンファル(Salman Matinfar)氏と、テヘランで最も知られたギャラリーの一つであるオー・ギャラリー(O Gallery)の創設者オルキデ・ダルーディー(Orkideh Daroodi)氏との会話から生まれた。制裁や渡航・輸送の制約があるなか、ダルーディー氏によると、海外の人々からイランの作家を支援する方法をよく尋ねられるという。「作品の方を彼らのもとに持っていくのが最善だと考えた」と振り返る。アブ・アンバル・ギャラリーは会場を提供し、販売手数料も取らなかった。
参加は互いの信頼に基づくもので、作品が無事に届き返送される保証がないまま海外へ発送するというリスクを各ギャラリーが受け入れた。紙や段ボール、テキスタイルを使った小さめの作品を選ぶなど輸送しやすくする工夫をしたにもかかわらず、情勢の不安定さから輸送費は想定を大きく上回ったという。展示される作風は幅広い。
背景
イランの美術界は、長年の制裁に加え、戦闘のなかで休廊を強いられたことも重なり、以前から厳しい状況に置かれてきたとされる。海外との取引では送金や決済が通りにくく、輸送の手配も難しいうえ、作家や関係者の査証取得も容易ではないという。金融機関や輸送業者が制裁違反を疑われる事態を避けようとして、法的に認められた取引まで敬遠する傾向があるとされる。こうした事情から、海外のギャラリーがイランの作家を取り扱うことに消極的になりやすい。
ダルーディー氏は、戦闘を経験したことがギャラリー同士の距離を縮め、考え方を変える一因になったとみている。いつ何が起きるか分からないという不安な状況を経て、競争するより協力し合おうという機運が生まれたという。マティンファル氏は、ギャラリーも作家も含めた業界全体が苦しんでいると話す。今回の合同展は、そうした状況のなかで美術のネットワークと作家たちを支えようとする試みでもある。
マティンファル氏自身もかつてテヘランでギャラリーを営んでいたが、閉業して2020年にロンドンでアブ・アンバル・ギャラリーを開いた経緯がある。ダルーディー氏は、イランのギャラリーが互いに協力しないという見方があるが、今回の取り組みはそれが事実でないことを示す機会になったと述べている。マティンファル氏は今後、この展覧会をニューヨークやパリ、ロサンゼルスといった美術市場の中心地へ巡回させたいとの考えを示し、「アートは人と人をつなぐ手段であり、それはどんな状況でも止められてはならないということを示したい」と語っている。
日本にとっての意味
イランの現代アート作品が日本の美術館やギャラリーで紹介される機会はほとんどないとみられる。今回の合同展が直面した送金・決済の難しさや輸送手配の煩雑さ、査証取得の壁は、イランの作家を招こうとする日本の美術機関にも同じように立ちはだかるとみられる。
また、約200ポンドから3000ポンドという価格帯を選んだ判断は、限られた収集家層だけでなく幅広い購入者に届けようとする姿勢の表れだ。孤立した状況のなかで美術のネットワークが生き延びる方法を模索していることがうかがえる。単発の展覧会情報として扱われがちなこうした動きは、制裁が個々の作家やギャラリーの営みにどう及ぶかを示す具体的な事例でもある。