メゾン・エ・オブジェ2026、新人枠に南アフリカの7組が登場
パリ郊外で開かれる見本市「メゾン・エ・オブジェ(Maison&Objet)」の新人賞「ライジングタレント・アワード(Rising Talent Awards)」で、2026年は南アフリカの7組のデザイナー・スタジオが選ばれた。家具や照明、ラグ、装飾品を通じて、伝統的な工芸や家族の記憶、素材への向き合い方を表現する作品が並んだ。
何が起きたのか
メゾン・エ・オブジェは年2回パリ近郊で開かれるインテリア・雑貨の見本市で、毎回、1か国から選ばれた新人デザイナーの作品を集めた小さな企画展を見本市の中に設けている。2026年9月の会期では、この枠に南アフリカのMeetlo Studio、Studio Lloyd、Simphiwe Mlambo、NISH、Pinda Interior Design、Karlien van Rooyen、DEFT Studiosの7組が選ばれた。拠点はヨハネスブルク、ケープタウン、ダーバンなど各地に広がる。
Oageng MananaとTshegofatso Ramothibeによるユニット、Meetlo Studioは、ワインラックや配膳用の家具といった身近な道具を、南アフリカの文化的伝統に根ざした形へと作り替える。そのひとつ「Abadimu」と名付けられた配膳用の家具は「祖先のために」という意味を持ち、彫刻を含めすべての工程を自社で手がけることで、独自の物語を作品に反映させているという。
Ashleigh LloydによるStudio Lloydは、これまでロッジやリゾートなどの宿泊施設向けに、アルミやステンレス、紫外線や風雨に強い合成ロープを使った大型の彫刻的な椅子や照明を手がけてきた。今回は一転して、住宅向けの小型のテーブルランプやペンダントランプの限定コレクションを発表した。ロープをかぎ針編みで成形する技法について、Lloydは「かぎ針編みは、その柔軟さや手触り、瞑想的とも言えるリズムを通じて、建築的な照明の硬さに対する、きわめて人間的な対比を差し出してくれる」と語っている。
ダーバン工科大学(Durban University of Technology)でインテリアデザインを学んだSimphiwe Mlamboはダーバン出身で、家族は建設業に携わる。2019年にスタジオを設立した。今回の作品群は、祖母が編んでいたござから着想を得ており、ベンチは祖母の織り機を、壁面パネルはござそのものを、照明は祖母が編み作業の際に使っていた明かりを思わせる形になっている。Mlamboは「個人的な体験や伝統的な技法を取り込んで、それを現代的な文脈へと翻訳することがすべての出発点だ」と説明する。
ダンサーとしての経歴を持つTanisha Neillのスタジオ、NISHは、身体と空間の関係やリズム感覚をデザインに反映させている。今回発表したラグは壁掛けとしても使える一枚で、古い雑誌の写真を切り取り重ねるコラージュ作家との協働から生まれた。羊毛と絹を手で植え込み、毛足の長さを変えることでコラージュの奥行きを再現し、山の風景と鳥のモチーフが浮かび上がる構成になっている。
背景
メゾン・エ・オブジェは、家具や照明、テキスタイル、生活雑貨を扱うバイヤーや建築家、インテリアデザイナー、メディアが世界中から集まる商談中心の見本市で、出展規模が大きく全体像をつかみにくいことで知られる。ライジングタレント・アワードは、その中に1つの国から選ばれた新人だけの企画展を設けることで、来場者が新興の作り手をまとまった形で見られるようにする仕組みだ。毎回焦点となる国は入れ替わり、これまでも様々な地域の新人枠が組まれてきたとみられる。
南アフリカが選ばれた背景には、工芸の技術やコミュニティとのつながり、環境への意識までを含む同国のデザインシーンの厚みがあるとみられる。今回選ばれた作り手たちは、家族の記憶や先住民の慣習、素材そのものの制約といった個人的・文化的な文脈を出発点にしながら、実用性を保った現代的なプロダクトへと落とし込んでいる点で共通している。
日本にとっての意味
メゾン・エ・オブジェは、バイヤーが仕入れを決める場であり、今回名前が挙がった南アフリカのスタジオの作品が、今後日本のセレクトショップやインテリアショップの店頭に並ぶ可能性はある。ただし品目によって輸入のハードルは異なる。Studio Lloydが力を入れ始めたテーブルランプやペンダントランプのような照明器具は、日本国内で販売する場合、電気用品安全法(PSE)に基づく基準を満たす必要があり、ラグやベンチに比べて輸入までの道のりが長くなりやすい。
また、Meetlo Studioが彫刻をすべて自社で行う制作体制や、NISHの手作業によるラグ制作は、量産に向かない小規模生産であることを意味する。こうした作り手の作品が日本で流通する場合、大量に仕入れる形ではなく、数量限定の企画として少しずつ紹介されていく可能性が高い。加えてStudio Lloydがこれまで手がけてきた宿泊施設や商業施設向けの家具は、日本の宿泊施設が改装や新規開業の際に海外デザイナーを起用する動きとも接点を持ちうる分野だ。