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英気候変動委員会、ヒースロー拡張めぐり航空の排出削減策の不足を指摘

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英国の気候変動委員会(Climate Change Committee, CCC)は日本時間の9月16日朝、ヒースロー空港拡張の是非に関する政府への助言を公表した。委員会は、現状の政策のままでは航空の排出が今後も増え、ヒースロー拡張を織り込めば2050年に英国のCO2排出のうち航空機由来が約8割を占める見通しだと示した。そのうえで、拡張はこの問題をさらに悪化させると指摘している。

何が起きたのか

英国の航空由来CO2排出は1990年以降2倍以上に増えた一方、他の経済部門の排出はおおむね減少してきた。CCCは、政府がヒースロー拡張を支持しつつSAF(持続可能な航空燃料)などに頼って排出削減を図っている現状について、確実に排出を減らす政策が伴っていないと指摘する。

試算によれば、拡張をしない場合でも2050年の航空由来CO2排出は3800万トンに達し、英国経済に残るCO2排出の大半を占める。この残る排出は、法律で定められたネットゼロ目標を達成するため、大気からの除去で相殺する必要がある。ヒースロー拡張が実現すれば、さらに240万トン(英国全体の排出の約5%相当)が上乗せされ、拡張が完了する2054年には450万トンに増える見込みだ。拡張の最終判断は2029年までに下される見通しで、政府はこれに先立ちCCCに助言を求めていた。

CCCのナイジェル・トッピング委員長は記者向け説明会で、「英国には(航空の排出を)ネットゼロに沿って削減する信頼できる計画が今のところ無く、これは気候公約の達成にとって深刻な課題を生んでいる」と述べた。前政権(保守党)は2022年に「ジェットゼロ戦略(jet-zero strategy)」を打ち出したが、SAFや電動航空機、燃費改善についての想定が非現実的だったと、現在の労働党政権も認めている。CCCは2027年に予定される改定戦略で、信頼できる政策の枠組みを示すべきだとし、それがそろって初めてヒースロー拡張はネットゼロ目標と両立しうるとした。

新戦略では、汚染者負担原則に基づき、航空業界自らがSAFやCO2除去の費用を負担する仕組みが必要だとCCCは提言する。特に、大気から直接CO2を回収して地下に貯留するDACCS(direct air carbon capture and storage)のような、機械を使って回収する技術への投資が欠かせないという。植林など自然の力を使った除去は英国の畜産由来メタンの相殺に充てる想定のため、航空由来のCO2については別に機械式の技術が必要だとCCCは説明している。

こうした費用を航空会社に負担させれば、航空券は値上がりする。CCCの試算では、2024年の物価で、スペイン・アリカンテ往復便で約150ポンド、ニューヨーク往復便で約400ポンドの上乗せが2050年までに生じる可能性があるという。それでも、飛行機を利用しない英国民の約半数が公費でCO2除去の費用を負担する形になるよりは望ましいとCCCは説明し、値上がりには今後見込まれる航空需要の増加を抑える効果もあるとしている。

背景

航空の排出割合がここまで上がる主な理由は、飛行機の排出そのものが際立って増えているというより、他の部門の排出が先に大きく減っていくためだとみられる。発電や自動車など多くの分野は再生可能エネルギーや電動化によって排出を大きく減らせる見通しがある一方、長距離を飛ぶ航空機はバッテリーでは代替しにくく、脱炭素の技術的な選択肢が限られているとみられる。英国全体の排出が縮んでいく中で、航空の排出がほぼ横ばいであれば、全体に占める割合は自動的に押し上げられていく。

CCCは英国政府に独立して助言する機関で、英国は法律でネットゼロ目標を定めている。今回のCCCの助言は、この拡張計画がネットゼロ目標と両立するかどうかを政府が判断するための材料として位置づけられている。

日本にとっての意味

今回CCCが示した、他部門の排出が減るほど航空の排出割合が相対的に高まるという構図は、英国だけの話ではない。日本も2050年のネットゼロを掲げており、発電や自動車などの分野で削減が進むほど、航空機からの排出がたとえ横ばいでも全体に占める割合は上がっていく可能性がある。羽田や成田では発着枠の拡大が進められてきており、便数が増えれば、この構図の中で航空由来の排出はさらに増えることになる。

日本航空(JAL)や全日本空輸(ANA)もSAFの導入目標を掲げているが、SAFも、CCCが指摘するような大気からCO2を直接回収する技術も、いずれも世界的に見てまだ供給量や実用化の規模が限られているとみられる。英国の事例が突きつけているのは、こうした技術が十分にそろうまでの間、誰が航空の排出削減の費用を負担するのかという論点だ。業界が自ら費用を負担するのか、公費で賄うのか、あるいは飛行機を利用する人としない人のどちらがコストを引き受けるのか。日本でも、空港容量の拡大とネットゼロ目標を両立させようとすれば、遅かれ早かれ同じ問いに向き合うことになりそうだ。