EU、記録的熱波を受け消防航空機隊の新設を構想
欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン委員長は現地時間9月16日、ストラスブールで行った年次演説で、記録的な熱波と森林火災を受けて新たな「欧州熱波対策計画」を提案し、将来的な欧州消防航空機隊の創設を目指す考えを示した。演説では「この夏は、真実を突きつけられた夏だった。欧州大陸のほぼどの地域も無傷では済まなかった」と述べた。EUはすでに小規模な自前の航空機隊を持つが、現状は加盟27カ国の航空機や給水車、ボランティアを火災発生地へ融通し合う仕組みを調整する役割が中心とされる。
何が起きたのか
フォンデアライエン氏は、今年の熱波でドナウ川、ライン川、フランスのガロンヌ川といった主要な河川の水位が目に見えて低下したと指摘した。さらに、熱波によって高齢者施設や病院が危険な高温にさらされたとし、熱波による死者の増加数が3万5000人以上に上ったと述べた。ただし、この3万5000人という数字の根拠は明らかにされていない。この数字は、7月時点で監視団体が示していた「超過死亡」の推計の3倍に当たる。
この夏の記録的な暑さと湿度に伴い、フランスやスペインでは森林火災が相次ぎ、数十万人が自宅からの避難を強いられた。あわせて欧州各地では、ハンガリーやフランスの原子力発電所が運転を停止したり、ベルギーとドイツの国境地帯で100年前の不発弾に引火したり、セルビアの川底に沈んでいた曳船が姿を現したりする出来事も伝えられた。
研究グループ「世界気象アトリビューション(World Weather Attribution、特定の異常気象と気候変動との関係を分析する国際研究組織)」の分析によれば、今回のような記録的な高温多湿は気候変動がなければ起こり得なかったとされる。フォンデアライエン氏は、これらはすべて予兆にすぎないと述べた。そのうえで、今夏は観測史上最も暑かったが、これから先の年月と比べればおそらく最も涼しい夏になるだろうとし、欧州は世界平均の2倍の速さで温暖化が進んでいると強調した。
演説では、今夏の消火活動にあたった現場の消防関係者への謝辞とともに、8月にギリシャで活動中に亡くなったデンマーク人のヘリコプター操縦士、ルーネ・キンダル氏の名が挙げられた。同氏の事例は、航空機や人員がEU加盟国の国境をまたいで火災対応にあたっている実態を映しているとみられる。フォンデアライエン氏は救急隊員や消防幹部に対し、より大きな視野で考え、より速く学ぶよう求め、EUとして新たな対応能力を設計する必要があるとの考えを示した。
背景
EUは現在、大規模な森林火災や自然災害が起きた際、加盟国が持つ消防航空機や車両、人員を融通し合う仕組みを運用しているとされる。EU自体が保有する航空機隊は小規模で、EUは基本的に各国の資産を必要な場所へ動かす調整役を担ってきたとみられる。今回フォンデアライエン氏が示した「将来の欧州消防航空機隊」構想は、この調整型の仕組みから一歩進み、EUがより大きな独自の航空戦力を持つ方向への転換を意味する可能性がある。
今夏は熱波が欧州全域を襲い、被害が南欧にとどまらず中欧やハンガリーなど広い範囲に及んだ。フォンデアライエン氏が「真実を突きつけられた夏」と呼んだ背景には、この広がりがあるとみられる。
日本にとっての意味
今回の演説で語られた、高齢者施設や病院が危険な高温にさらされたという指摘は、日本の高齢化社会にとっても他人事ではない。日本ではすでに環境省と気象庁が「熱中症警戒アラート」を運用しているとされ、自治体や施設に注意を呼びかける仕組みがある。ただ、EUが検討する「欧州熱波対策計画」がどのような具体策を伴うのか、今後の発表内容は日本の熱中症対策を考えるうえでも参考になり得る。
また、消防航空機隊をめぐる「各国の資産を調整するか、共通の戦力を持つか」という論点は、日本の防災体制にも通じるところがある。日本の消防・防災ヘリコプターは基本的に都道府県ごとに保有され、大規模災害時には緊急消防援助隊などを通じて広域的な応援態勢が組まれる仕組みになっているとされる。EUが自前の航空機隊を持つべきか、加盟国間の調整にとどめるべきかという議論は、規模や制度は異なるものの、広域応援の仕組みをどう強化するかという日本国内の防災議論とも重なる部分がある。数万人規模ともされる死者数の妥当性はともかく、記録的熱波が具体的な政策転換を促した事例として、注目する価値がある。