英国の庭に70年、苔むした像は米国初のプロ女性彫刻家の作品だった
英国の一般家庭の庭に70年以上放置されていた苔むす胸像が、実は米国初のプロ女性彫刻家として知られるハリエット・ゴッドヒュー・ホズマーのデビュー作とみられる大理石像だったことが分かった。所有していた家族は、資産の価値を調べる家屋鑑定の過程で偶然その正体を知らされたという。像は最大で2万4300ドルの価値があると評価されている。
何が起きたのか
発見のきっかけは、競売会社チョーリーズ・オークショニアーズが行った日常的な家屋の資産評価だった。同社のトーマス・ジェナー=ファスト氏は英BBCニュースの取材に対し、所有者について「大理石だとは思っていなかったし、誰の作品かも、これほど価値があるとも思っていなかった」と語ったという。庭の飾り程度と見なされ、表面は苔で覆われたまま何十年も屋外に置かれていた。
この像はギリシャ神話に登場するニンフ、ダフネを表した19世紀の彫刻で、汚れを落とすと輝く大理石の表面が現れた。背面にはホズマーの名前と「Me Fecit Roma(ローマが私を作った、の意)」というラテン語の刻銘があり、これが作者を特定する手がかりになった。1854年に制作されたこの作品は、ホズマーのデビュー作とみられている。
背景
ホズマーは1830年、米国マサチューセッツ州に生まれた。ホズマーは母と3人の兄弟を結核で亡くしている。医師だった父親は、娘の健康を守ろうと、乗馬やカヌーなど身体を動かす活動を積極的に勧めたとされる。当時、女性が人体解剖を学ぶことはほとんど許されなかったが、ホズマーはそれを学び、彫刻家ジョン・ギブソンの工房に受け入れられた。
彼女はイタリアのローマに渡り、外国人の女性彫刻家たちが集う小さなコミュニティで活動した。彼女たちは大理石という素材にちなみ、いくぶん見下したニュアンスを込めて「ホワイト・マーモリアン・フロック(white marmorean flock、白い大理石の群れの意)」と呼ばれることもあったという。ホズマーの作品には、家父長制的な期待に逆らう女性像を主題にしたものが多く、代表作とされる「鎖につながれたゼノビア」(1859年)は、ローマ皇帝に捕らえられた古代パルミラの女王を描いた高さ約2.1メートルの立像だ。この作品がロンドンで公開された際、あまりの完成度の高さから、一部の批評家や新聞は女性が制作したことを信じようとしなかったという。
ホズマーはまた、女性との長期的な恋愛関係を持ち続けた人物としても知られる。同性愛が広く忌避され、多くの地域で違法とされていた時代にあって、その生き方は異例だった。こうした背景から、彼女は今日、クィア(queer、性的少数者を広く指す語)の先駆者としても位置づけられている。
日本にとっての意味
今回の発見は、相続や遺品整理に伴う鑑定の場で思いがけない価値を持つ品が見つかるということが、日本の家庭でも起こり得ると示している。屋外に長年置かれた石造物が苔や汚れに覆われ、単なる装飾品として見過ごされてしまうのは、素材や気候を問わない普遍的な話だ。
加えて、19世紀に活躍しながら十分に評価されてこなかった女性作家を再評価しようという動きは、欧米の美術界で近年広がりを見せているとされる。ホズマーの作品はその代表例の一つだが、日本国内で彼女の彫刻を実際に目にする機会は限られているとみられる。だからこそ、こうした海外の発見のニュースは、日本の読者にとって知られざる美術史に触れる数少ない窓口になる。