ジョットの壁画、デジタルで高精細記録 アッシジの聖フランチェスコ聖堂
イタリア中部ウンブリア州アッシジにある聖フランチェスコ聖堂の内部を、パソコンやスマートフォンから360度見て回れる無料プラットフォーム「Preserving Assisi(プリザービング・アッシジ)」が公開された。ジョットやチマブーエ、ピエトロ・ロレンツェッティらが手がけた壁画を、超高精細な画像で記録し保存する取り組みだ。
何が起きたのか
Preserving Assisiは現地時間9月16日に公開された。文化財の超高精細撮影を専門とするイタリア企業ハルタデフィニツィオーネ(Haltadefinizione)が開発した。聖フランチェスコ聖堂は上堂(Upper basilica)と下堂(Lower basilica)の2つの教会が重なる構造で、13世紀前半に建てられたユネスコの世界遺産だ。
利用者はGoogleマップのように矢印で移動しながら、上堂・下堂の内部と外観を一人称視点で見て回れる。壁画の細部をクリックすると拡大画像が表示され、上堂の身廊にあるジョットの「素朴な男の敬意」(1300年頃)や、下堂の南トランセプトにあるロレンツェッティの「磔刑」(1320年頃)なども間近に見られる。
この画像群は、2025年と2026年の2年間かけて撮影した2万7000枚の高精細写真をもとに作られた。これらの写真を合成して116点のギガピクセル画像(複数の高解像度写真をモザイク状に組み合わせた極めて精細な画像)を制作した。ロレンツェッティの「磔刑」は、約80億画素という規模の画像としてプラットフォームに組み込まれている。開発チームは、アクセスの改善だけでなく、ある時点の聖堂の姿をデジタルで記録することで、将来の研究者が変化を比較・分析できるようにする狙いがあるとしている。撮影と公開は今後も続く予定だという。
背景
聖フランチェスコ聖堂では、写真による記録が過去にも修復を支えてきた。1997年、マグニチュード5.7と6.0の地震が相次いでこの地域を襲い、聖堂は大きな被害を受けた。ジョットが手がけた聖フランチェスコの生涯を描く壁画群や、チマブーエの作品もこのとき損傷した。
地震が起きた当時、イタリアの出版社フランコ・コジモ・パニーニ・エディトーレ(Franco Cosimo Panini Editore)がちょうど聖堂の撮影プロジェクトを進めていた。このときに残された高精細な写真が、被災した壁画の修復作業で重要な資料となったという経緯がある。今回のデジタル化は、この教訓を踏まえたものとみられる。
イタリアは地震の多い国であり、壁に直接描かれたフレスコ画のような美術は、崩落や剥落が起きた場合、原状の記録がなければ復元自体が難しい。詳細な画像記録をあらかじめ残しておくことは、被災後の修復方針を決めるうえでの基礎資料になる。
日本にとっての意味
日本も地震国であり、寺社仏閣の壁画や仏像の保存には同様の課題がある。法隆寺金堂壁画が1949年の火災で大きく損傷したほか、近年の地震で文化財が被災した例も少なくない。アッシジの取り組みは、被災を前提に「壊れる前に精密な記録を残す」という発想を具体的な形で示しており、日本の文化財保存やデジタルアーカイブ事業にとっても参考になりうる事例といえる。
また、Preserving Assisiは無料で公開されており、実際に現地を訪れなくてもジョットやチマブーエの壁画を高精細に鑑賞できる。イタリア旅行を計画する読者にとっては、現地訪問前の予習や、混雑を避けて細部をじっくり見る手段としても活用できる。