道具ひとつでスツールを作る課題 英RCAの学生23点をロンドンで展示
60センチのステンレス定規10本を、ナットとボルト1組だけで留めたスツール。使ってよい道具は一つ、素材は最小限。英王立芸術大学院(RCA)が修士課程の学生に出したこの課題への答え23点が、ロンドンで並んだ。
何が起きたのか
展示の名は「One Tool, One Stool」。サウス・ケンジントンのギャラリーThe Laveryで、9月12日から20日まで開かれた。ロンドン・デザイン・フェスティバルの一環だ。23点は貴重な工芸品のように床一面へ並べて置かれた。会場名の由来は、かつてここを仕事場にしていた画家ジョン・レイヴァリーである。
課題に取り組んだのは、デザインプロダクツ専攻の修士課程の学生全員。展示名が示すとおり、一つの道具と最小限の素材でスツールを構想することが条件だった。
出てきた答えは、素材に加えた操作の種類で割れている。束ねる、削る、溶かす、曲げるである。
束ねた作品が目立つ。スー・イー氏は、オレンジと黄色のペイントローラーを細い赤い紐で数珠つなぎにして、低い座面を作った。ニンフ・モンコルチープ氏は、細い針金で束ねた木製のビーズを立方体のスツールに巻きつけ、ざらついた表面にした。マヤンク・パトーレ氏は、60センチのステンレス定規10本をナットとボルト1組で留め、八方に脚が突き出した形にまとめている。測定のための道具一式が荷重を支える構造になりうることを示すために作った、実験的な一脚だという。
削ったのはピル・ギュ・ジャン氏だ。吸音フォームの板を控えめに彫って形を出し、くすんだ桃色のスツールにした。溶かしたのはアニサ・イェレク氏。白い蝋燭をヒートガンで溶かして塊にし、球根のようにふくらんだ座を作った。静かに考えこむための座席にしたかったという。溶けてしまうかもしれないスツールであり、座るとは、留まるとは、燃えるとは何かを問う椅子だと同氏は説明する。
曲げたのはヴィンセント・シュワルツ氏で、金属の板を手で曲げただけで座れる形にした。展示の中で最もミニマルな部類に入る。モンコルチープ氏の作品の隣に置かれた。
RCAはこの課題を、ごくわずかな手立てでどこまで到達できるかを考えさせるものだと説明する。資源の使い方を工夫させ、考えることと作ることを直結させる狙いだという。それぞれの答えが素材、構法、問題の解き方への別々の接近を見せている、とも述べた。
背景
One Tool, One Stoolは、The Laveryの「Perfectly Imperfect」展の一部にあたる。キュレーションはアレックス・ティエギ=ウォーカー氏。同展には、Studio Ironによる2回目のコレクティブルデザイン展も含まれている。写真はアンディ・スタッグ氏が撮影した。
日本にとっての意味
道具と素材を絞りきった先にスツールが出てくることは、日本のデザイン史でも起きている。柳宗理のバタフライスツールがそれだ。
1956年に発表されたこのスツールは、同じ形の成形合板2枚を真鍮の金具で留めただけでできている。部品はそれだけだ。形は天童木工の成形合板という製造技術の内側から探り当てられた。作れる形の範囲があらかじめ狭く決まっていて、その中で座れる形を見つける作業だった。
探り方も、RCAが言う「考えることと作ることの直結」に近い。柳はすべての形を模型作りから始めた。紙を切り、石膏を削り、手のひらで感触を確かめながら形を決めていったと、2008年に広島市現代美術館が開いた回顧展は説明している。展覧会の名は「柳宗理 手から生まれるかたち」だった。
柳は金沢美術工芸大学で長く教えた。同大のデザイン科には、いまも「手で考える」という言葉が残っている。作りながら考えるという制作の方法が、そのまま教育の言葉になった。
RCAが道具を一つに絞るのも、学生を同じ場所へ追い込むためだ。選べる手数が減れば、頭の中で完成形を決めてから手を動かすということができなくなる。ペイントローラーも蝋燭も定規も、買ってきて触ってみるまで何になるか分からない。23点の振れ幅は、その分からなさの幅である。