スイス9館、カメルーン由来6300点超の来歴を共同調査へ
スイスの美術館・博物館9館が、所蔵するカメルーン由来の資料6300点余りについて、来歴(provenance、収蔵品がいつ誰の手を経てどのように取得されたかを示す経緯)を調べる共同調査に取り組む。スイス連邦文化庁が現地時間2026年9月29日に発表し、SFr10万(9万1000ポンド)の連邦助成を2027〜28年にかけて出す。
何が起きたのか
調査の対象は、バーゼル、ベルン、ブルクドルフ、ジュネーブ、ローザンヌ、ヌーシャテル、ヴィンタートゥール、チューリヒの各都市にある9つの施設。バーゼル文化博物館、ジュネーブ民族学博物館、ベルン歴史博物館などが名を連ねる。調査では、各資料がどのように取得されたか、所有者がどう移り変わったか、そしてカメルーンで現在どのような意味を持つ資料なのかを明らかにする。
バーゼル文化博物館の来歴調査研究者イザベラ・ボツァ氏によると、ドイツの民族学博物館ではすでにカメルーン由来資料の調査が進んでおり、ヨーロッパ側の収蔵実態の把握とカメルーン側の関心の高まりにつながってきた。2024年にはカメルーンの代表団がスイスの複数の美術館を訪れており、ボツァ氏はこの訪問が収蔵品を調べる緊急性を際立たせたと話す。
カメルーンの文化財返還にあたる省庁間委員会の市民社会代表、レグラン・チャチュアン氏(バングアの首長領の王子)によれば、スイスの美術館にはカメルーンの320を超える民族・文化集団に由来する資料が収蔵されている。チャチュアン氏は新たな調査を歓迎する一方、「ヨーロッパ中心的な事業、つまりヨーロッパ側や学術的な視点だけに基づく事業は、カメルーンに新たな問題を生みかねない」と、カメルーン側の視点を調査の設計に反映させる必要性を指摘した。
背景
スイスは自国の植民地を持たなかったが、バーゼル・ミッション(スイスのキリスト教宣教団体)の宣教師たちがドイツの植民地統治下にあったカメルーンで活動し、スイスの博物館収蔵品の形成に大きな役割を果たした。その後、フランス・イギリスの委任統治期の調査遠征を通じて渡ったものや、美術品・「民族誌資料」市場で購入されたものも含まれる。
チャチュアン氏は、植民地支配への抵抗に使われた呪物のように、現代のカメルーン社会では既に役割を終えた資料もあると述べた。そのうえで、植民地時代は終わっており、必要なのは一部の慣行を脱植民地化することで、そのために対話が最善の方法だと語った。ボツァ氏は、各館の収蔵品どうしに歴史的なつながりや地域的な重なりがあるとして、ベニン・イニシアティブ・スイス(スイスの美術館と資料の由来国の関係者が協力する枠組み)を協働のモデルに挙げている。
日本にとっての意味
国が主導し、複数施設に分散した由来資料を横断的に洗い出し、由来側を調査の枠組みに関与させるという仕組みは、日本ではアイヌ遺骨・副葬品をめぐって先に動いている。文部科学省は2018年10〜12月に全大学等を調査し、12大学で遺骨1574体・346箱の保管を確認、2019年4月に公表した。このうち9大学分の1323体・287箱は、2020年10月までに白老町の慰霊施設へ集約済みだ。文化庁も博物館側を調べ、2022年7月に再調査結果(改訂版)を公表している。
取得経緯の扱いにも手順がある。北海道アイヌ協会・日本人類学会・日本考古学協会によるラウンドテーブルの最終報告書(2017年4月)は、アイヌへの遺骨返還と慰霊の実現が研究に優先されるとし、研究の実施についてアイヌの同意が得られない遺骨は研究倫理の観点から研究対象とすることに問題があるとした。日本人類学会は2025年12月15日の声明で、研究対象としてきたアイヌ遺骨の入手経緯への問題意識が薄かったとして、お詫びの意を示した。スイスはこれから来歴調査に着手する段階だが、日本では洗い出しから集約までの手順が先に組み上がり、研究の可否を判断する考え方も示されている。