紅海のサンゴ、プロバイオティクス投与で熱波の白化を防止
サウジアラビア沿岸の紅海で2022年に熱波が起きた際、健全なサンゴから分離した細菌(プロバイオティクス、probiotic)を投与されたサンゴだけが白化を免れたと、サウジアラビアの研究チームが発表した。熱波が始まった後に細菌を注入する事後対応でも効果があり、加熱して殺した細菌でも、2種のうち1種で同様の結果が出た。野外の礁でこうした効果が確認されたのは今回が初めてという。
何が起きたのか
研究を主導したのは、サウジアラビアのキング・アブドラ科学技術大学(KAUST)の微生物生態学者ラケル・ペイショト氏のチームだ。ペイショト氏は2021年、紅海の礁の一部を区切った水中実験場「コーラル・プロバイオティック・ビレッジ」を設け、サンゴの保護手法を試していた。
2022年に熱波が到来すると、研究チームは事前に健全なサンゴから分離していた複数の細菌(Cobetia属、Halomonas属など)を使い、生きた細菌そのものを投与する「プロバイオティクス」処理2種と、それぞれを加熱して殺した「ポストバイオティクス」処理を用意した。熱波はすでに始まっていたが、研究者らは15日間に8回潜水し、注射器でサンゴの群体近くに細菌を投与した。
水温は現地の夏の平均より約1.2℃高い30.9〜32℃まで上昇していたが、プロバイオティクス処理の2種とポストバイオティクス処理の1種を受けたサンゴは色(白化の指標)と共生藻の光合成の効率をともに維持した。一方、何も処理しなかった対照群のサンゴは健康状態が悪化した。遺伝子解析では、処理後にサンゴの細菌叢(microbiome)そのものが変化していたことも確認された。
背景
サンゴは海洋生物の約3分の1の生息場所になっているとされるが、近年は前例のない速さで失われているとみられる。水温が上がるとサンゴの体内に共生する藻類との関係が崩れ、白化して、そのまま死に至ることがある。産業革命前より地球の気温が1.5℃上昇すると、2100年までに世界のサンゴの70〜90%が深刻な劣化の危機にさらされるとの推算もある。
ペイショト氏はこれまで、水槽実験でプロバイオティクスが白化を抑え、サンゴを生き延びさせることを示していた。今回は、水槽ではなく実際の礁で、しかも熱波が始まってから細菌を投与するという、より実践に近い条件での効果を確かめた点が新しい。
日本にとっての意味
サンゴ自体の耐熱性を人の手で上げる方向性は日本でも進んでいるが、介入する時点が異なる。水産庁の委託事業は2018年度から高水温耐性サンゴの種苗生産技術の開発に取り組み、久米島の施設でウスエダミドリイシを高水温にさらし、耐性のある個体を選抜する技術開発を続けてきた。紅海の試験と同じ2022年の夏には、沖縄周辺でも広い範囲で白化が起きている。
つまり日本の事業は熱波が来る前に耐性個体を用意しておく道を選んでいる。これに対し紅海の結果は、熱波が始まった後でも既存の群体に介入できる可能性を示した点で対照的だ。日本でもJST ACT-Xの支援で褐虫藻に共生する細菌を操作する研究が進むが、実証はまだ基盤作りの段階にあるとみられる。