欧州の火星探査車、スペインの砂漠で着陸前の模擬運用訓練
欧州宇宙機関(ESA)は2026年9月、火星探査車「ロザリンド・フランクリン」の試作機をスペイン南東部の砂漠で8日間走らせ、着陸前の運用リハーサルを行った。走らせたのはAirbus製の試作ローバー「Charlie」で、約1200キロメートル離れたイタリア・トリノの運用管制室(ROCC)にいる科学チームが、毎日届く画像やデータだけを手がかりに翌日の行き先を決める手順を練習した。欧州各国から集まった約100人の科学者・技術者が参加した。
何が起きたのか
試験の舞台となったタベルナス砂漠は、火星に似た地形として選ばれた。Charlieは実機と同じ航法誘導制御ソフトを積み、8日間で220メートルを移動した。6日目には操作者なしで60メートル以上を自律走行し、位置のずれは1%未満にとどまったという。
管制室の科学チームは、ローバーが送るカメラ画像や地中レーダー、分光データから、生命の痕跡を探すのに有望な地点を見極める作業を日々こなした。ある場面では、送られてきたデータだけでは斜面の急さが判断しづらく、技術者のキアラ・ロンバルディ氏は「我々が象だと思っていたものを、砂漠にいた操作者はネズミだと見ていた」と振り返っている。チームは当初、安全策として慎重に走らせ、その後、標高データから実際には緩やかな斜面だったことを確認した。別の日には雨で試験が中断し、計画の立て直しを経験したという。
今回は20日間の試験期間の一部で、次回は2027年夏に予定され、火星探査機「ExoMars Trace Gas Orbiter」とのやり取りも加えてより本番に近づける。ロザリンド・フランクリンの火星着陸は2030年の予定だ。
背景
ExoMars計画は、火星の地下に生命の痕跡が残っていないかを探すことを主目的にした欧州の探査計画だ。火星と地球の間では通信に時間差があり、地球からリアルタイムで操縦することは難しい。そのため着陸後は、ローバーが集めたデータを地上の科学チームが読み解き、翌日の行動計画を立てて送り返すという一日単位の判断を繰り返すことになる。
今回の砂漠試験は、現地のような環境を再現したうえで、この日々の判断サイクルを人間側がどう回すかを本番前に通しで練習することに主眼があった。管制室と、火星を模した現場との連携や、限られたデータから地形や有望な観測地点を見極める判断力は、着陸後の日々を無駄にしないために欠かせない要素とみられる。
日本にとっての意味
ESAの試験の核心は、遠い管制室の科学チームが毎日のデータだけで次の一手を決める判断サイクルを、着陸前に通しで練習する点にある。日本もこの型と接点がある。
2022年にNASAがアリゾナ州で行った有人与圧ローバーの模擬野外試験D-RATSでは、乗員8人中4人がJAXAの飛行士・技術者で、ヒューストンの管制センター側にもJAXAの管制員や科学者が加わった。試験では、管制センターの科学チームが乗員と直接交信し、船外活動中は乗員主導と管制センター主導の両方で与圧ローバーを遠隔操作する手順を試した。この試験では、窓を覆って外部カメラの映像だけを頼りに走行する手順も試された。限られた映像から地形を読む難しさは、ESAの試験で起きた読み誤りと通じる。
日本が主担当となる無人ローバーでは、2028年度打上げ予定の月極域探査機LUPEXが、着陸後3.5か月以上という限られた運用期間のなかで観測地点(ウェイポイント)を事前に選んでおく計画だ。2025年8月時点では、科学界との連携や運用タイムラインの検討が進む段階にある。