フランス中部の美術館からダリ装飾の巨大ブックカバー盗まれる
フランス中部イソワールの美術館から、画家サルバドール・ダリが手がけた青銅製のブックカバーが盗まれた。重さ150キログラムの装飾品は金や宝石、真珠で飾られ、1958年から61年にかけてダリが制作したものだった。盗難は現地時間10月4日の夜に起き、館主は翌朝になって気づいた。
何が起きたのか
盗まれたのは「黙示録の書(Livre de l’Apocalypse)」と呼ばれる豪華本の表紙。フランス中部オーヴェルニュ地域イソワールにある「C.カルツォス現代美術センター」から、現地時間10月4日の夜に持ち去られた。館主クリスチャン・カルツォス氏が建物の大きな門の一つがこじ開けられているのに気づき、現地時間5日月曜の昼前に盗難が発覚したという。
クレルモン・フェラン検察当局が捜査に入っている。英テレグラフ紙によると、カルツォス氏は地元ラジオ局に「彼ら(窃盗犯)は昨夜フランスを、フランスの遺産を殺した」と語った。
表紙は美術出版者ジョゼフ・フォレの依頼でダリが制作したもので、金や宝石、真珠、貝殻で飾られた青銅製だった。制作当時の評価額は200万フランスフラン、およそ30万5千ユーロ(約5400万円)に相当するとされる。中には新約聖書のうち、使徒ヨハネが西暦97年にギリシャのパトモス島で書いたとされる「ヨハネの黙示録」の本文が収められ、ジャン・コクトーやレオノール・フィニ、ジョルジュ・マチュー、ベルナール・ビュフェらが挿絵を手がけた。この本は2003年にカルツォス氏が入手していた。
背景
ダリはスペイン出身の画家で、奇抜な演出で知られる一方、豪華な限定本の装飾も手がけた。フランスには、出版者が著名な画家に依頼して稀少な挿絵本を仕立てる「リーヴル・ダルティスト(livre d’artiste)」と呼ばれる伝統があり、この表紙もその流れで作られたとみられる。
欧州では美術館からの作品盗難が相次いでいる。2026年9月にはニース近郊カーニュ・シュル・メールのルノワール美術館で、印象派の画家ピエール=オーギュスト・ルノワールの絵画2点が盗まれた。2026年8月にはイタリア・シチリア島メッシーナの地域美術館から、ルネサンス期の画家アントネロ・ダ・メッシーナの作品4点が盗まれている。
日本にとっての意味
表紙を依頼したフォレとダリの共同の仕事は、日本の美術館も所蔵している。福島県北塩原村の諸橋近代美術館は、ダリの作品を常設展示する美術館として1999年に開館した。スペインのダリ劇場美術館、米フロリダ州のダリ美術館に次ぎ、世界で3館目だという。油彩や彫刻、版画などダリの作品約340点を所蔵し、彫刻は39点にのぼる。同館は設備の改修のため長期休館しており、2027年4月に再び開く予定だ。
所蔵品の一つに、1957年のカラーリトグラフ「ドン・キホーテ」がある。米シラキュース大学図書館によると、ダリとフォレは1956年から63年にかけて豪華本を3冊つくった。最初の1冊が、12点の挿絵を収めた「ドン・キホーテ」である。ダリにとって初めてのリトグラフで、インクを詰めた弾を石版に撃ち込み、飛び散った跡の上に絵を描き重ねた。2冊目が1961年に完成した「黙示録」で、今回盗まれたのはその表紙だった。