EU・NZ貿易協定の気候条項、初の発動試験に
オランダの環境NGOが、ニュージーランドがEUとの自由貿易協定に含まれる気候関連の条項に違反したとして、欧州委員会に申し立てた。2024年に発効したこの協定は、気候に関する約束を法的拘束力のある条項として組み込み、違反すれば貿易上の制裁にまで進む仕組みを世界で初めて採用したとされる。この仕組みが実際に機能するかどうかが試される最初の事例になる。
何が起きたのか
申し立てたのはオランダのNGO、Both ENDS。ニュージーランドが沖合での石油・天然ガス探査を再開したこと、排出削減をほとんど求めない気候計画を発表したこと、企業が気候被害で訴えられることを防ぐ法律を成立させたことを挙げ、これらが協定の環境・気候条項に反すると主張している。協定は双方に、貿易や投資を促すために自国の環境法の保護水準を緩和しないこと、そしてパリ協定の目的を実質的に損なう行為を控えることを約束させている。
申し立ては、EUが設けたシングル・エントリー・ポイント(Single Entry Point、市民社会が貿易協定の履行を欧州委員会に求める窓口)を通じて提出された。ニュージーランド外務貿易省は違反を否定し、正式な通知はまだ受けていないとした。欧州委員会は予備的な検討を始め、NGOと協議すると述べた。ニュージーランド貿易相のトッド・マクレイ氏は現地メディアに対し、「海外の国や団体、圧力団体がニュージーランドにどう義務を果たすべきか指示する立場にはない」と述べている。
背景
この協定の「貿易と持続可能な開発(TSD)章」と呼ばれる仕組みは、違反が解消されなければ最終的に特恵的な市場アクセスの停止という制裁に進める設計になっているとされる。EUは近年、同種の条項をほかに14件の二国間協定に導入し、中国などとの協定でも同様の条項の交渉や批准手続きが進められているという。専門家は以前から、パリ協定に関する条項がどう執行されるのかは不透明だと指摘している。
ニュージーランドでは右派連立政権のもとで気候・エネルギー政策の見直しが進んでいるとみられる。EUはニュージーランドにとって中国に次ぐ第2の貿易相手国で、輸出の約14%が欧州市場向けとされ、肉や乳製品、果物や野菜などの農産品が主要な輸出品となっている。申し立てを支持する側の専門家は、EUが申し立てを認めれば両者の協議が始まり、ニュージーランドが行動を改めることを目指す交渉過程に入るとみている。制裁よりも交渉による解決に至る可能性の方が高いという。
日本にとっての意味
日EU EPAにも同種の気候条項を含む貿易と持続可能な開発章があるが、違反を争う出口の設計はEU・ニュージーランド協定と異なる。外務省経済局のファクトシートによれば、この章の解釈や適用で意見が分かれても協定本体の紛争解決手続は適用されない。政府間協議で解決しなければ貿易及び持続可能な開発に関する委員会が開かれ、なお解決しなければ専門家パネルが報告書をまとめるが、両締約者はその報告を踏まえて措置を討議するとされ、市場アクセスの停止のような制裁に進む規定は示されていない。
また、日本側は同章が想定する国内の市民社会向けの協議の仕組みを、既存の中央環境審議会と労働政策審議会を通じて実施していると2021年1月の委員会で説明している。協定発効から約2年を経たこの時点でも、専門家名簿や手続規則はまだ確定していなかった。