スペインの岩陰遺跡でネアンデルタール人の木製道具がまとまって発見
スペインの岩陰遺跡アブリック・ロマニで、ネアンデルタール人が作ったとみられる木製の道具がまとまって見つかった。研究チームはおよそ600点の木製品、またはその痕跡を記録し、このうち13点は人の手で加工された形が明確だったという。木は通常すぐに腐ってしまうが、周期的な水没と水に含まれる鉱物成分が、この遺跡での保存を助けたとみられる。
何が起きたのか
木でできた道具は、通常の遺跡ではほとんど残らない。有機物は分解が早く進むため、数万年単位の時間を経て形を保つことは珍しい。しかしこの遺跡では、周期的に水に浸かる環境と、水に溶け込んだ鉱物成分が、木が失われるまでの保存を助けたか、あるいは失われたあともその形をとどめる働きをしたとみられる。
今回の発見は、ネアンデルタール人が木工の技術を持っていたことを示す資料として注目されている。
背景
ネアンデルタール人は、現代人類(ホモ・サピエンス)と並行してユーラシア大陸に生きていた旧人類で、石器づくりの技術でよく知られている。発掘される遺物の大半が石器なのは、石が長期間風化に耐えるのに対し、木や骨、植物繊維などの有機物は環境条件が整わない限り分解されてしまうためだとされる。
このため考古学の記録は、当時の人々が実際に使っていた道具の種類に比べ、石器に偏って残っている可能性が指摘されている。木製の道具がまとまって見つかる例は世界的にもごく限られているとされ、水に浸かる環境で保存されたアブリック・ロマニのような遺跡は、こうした「残りにくいものの記録」を補う手がかりとして意味を持つ。
日本にとっての意味
アブリック・ロマニの木製品には、木そのものだけでなく、水に含まれる鉱物が木の周りに固まり、木が朽ちたあとにその形を残した痕跡を読み取って復元されたものも含まれる。消えた対象の形を、別の物質が保持した空間から復元する発想は、日本の縄文土器研究の圧痕レプリカ法と対応する。
縄文土器の粘土に紛れ込んだ種子は焼成の際に燃え尽きて失われるとされるが、土器にはその形をそのまま写した空洞が残る。研究者はこの空洞にシリコーンを流し込んでレプリカを作り、走査型電子顕微鏡で観察して種を同定する。
金沢大学・中央大学・富士宮市教育委員会は2026年5月、静岡県富士宮市の大鹿窪遺跡の土器からこの方法でシソ属果実の圧痕を見つけ、約12,600〜12,900年前のもので、従来知られていたシソ属の土器圧痕より約2,000〜3,000年古いと発表した。