夜勤で新型コロナ後遺症のリスク約1.9倍、スペインの研究
夜勤で働く人は、新型コロナウイルスに感染したあとにコロナ後遺症(long COVID)を発症するリスクが、日勤の人より88%高いとする研究結果が発表された。感染そのもののしやすさには夜勤の影響が見られず、研究チームは体内時計の乱れが感染後の「回復のしかた」に関わっている可能性を指摘している。
何が起きたのか
この研究は、ウィーン医科大学とISGlobal(スペインの研究機関)のチームが、スペインで2021年から2023年にかけて実施された大規模疫学調査「COVICAT」の参加者データを分析したもの。新型コロナに感染した参加者1899人を感染後2年間追跡したところ、283人(14.9%)が3か月以上症状が続くコロナ後遺症を発症した。症状は神経系(54.4%)が最も多く、筋肉症状(30.4%)、呼吸器症状(20.5%)が続いた。多くの感染はオミクロン株が主流だった時期に起き、急性期の症状は軽度から中等度が中心だったという。
夜勤で働いていた人は、日勤の人に比べて後遺症を発症するリスクが1.88倍だった。夜勤の回数が月3回以上の人、または夜勤を3か月以上続けていた人では、リスクはいずれも2.07倍に上昇した。一方で、夜勤が新型コロナへの感染しやすさ自体を高めるという関連は見られなかった。この結果から研究チームは、体内時計(概日リズム)の乱れが、感染するかどうかよりも、感染後に症状が長引くかどうかに強く関わっているとみている。
睡眠の質も独立したリスク要因だった。3か月以上、週3晩以上にわたって続く「慢性不眠」がある人は、それがない人より後遺症のリスクが42%高かった。さらに夜勤と慢性不眠の両方に該当する人は、不眠のない日勤者に比べてリスクが2.69倍に上った。肥満のある夜勤労働者ではリスクが3.77倍という数字も示されたが、対象者数が少なく、著者ら自身が「慎重な解釈と追試が必要」と注釈を付けている。ISGlobalのマノリス・コゲビナス氏は「体内時計の乱れは、急性感染から持続的な症状への移行に関与していると考えられる」と述べている。
背景
コロナ後遺症は、感染から回復した後も倦怠感や息切れ、集中力の低下といった症状が長期間続く状態を指す。発症の仕組みはまだ十分に解明されておらず、免疫の異常反応や体内の炎症の持続などが関わっているという指摘があるが、確立した説明はない。今回の研究が示したのは、夜勤による体内時計の乱れがこの回復過程に影響しているという関連性であり、原因と結果を直接証明したものではない点には注意が必要だ。観察研究であるため、夜勤者に共通する他の生活要因が結果に影響した可能性も排除できない。
それでも、感染しやすさと無関係にリスクが上がっているという結果は、体内時計の乱れが免疫や炎症の回復プロセスに関与しているという見方を後押しする材料になる。また今回の対象者の多くがオミクロン株流行期に軽症から中等症で感染していることから、重症患者に限らず、一般的な感染パターンでも夜勤の影響が現れうることを示す点も注目される。
日本にとっての意味
今回の研究で見逃せないのは、慢性的な睡眠不足や睡眠の質の低下そのものが独立したリスク要因として示された点だ。つまりこの知見は夜勤者に限った話ではなく、日勤でも慢性的に睡眠が乱れている人全般に関わりうる。そのうえで、看護・介護・物流・製造業など交代勤務が多い職種で働く人にとっては、より直接的な意味を持つ。日本でも深夜業に従事する労働者を対象とした健康診断の仕組みがあるとされるが、そこでの主な関心は生活習慣病などであり、感染症からの回復の遅れという観点は一般にはあまり意識されていない。今回の研究は、感染症対策を「うつらないこと」だけでなく「かかった後にどう回復するか」という視点でとらえ直す材料になる。コロナ後遺症を診る専門外来を設ける医療機関も国内にあり、症状が長引く背景に睡眠や勤務形態の乱れが関わっている可能性を知っておくことは、当事者にとっても、職場の健康管理を考える立場の人にとっても具体的な意味を持つだろう。