ウクライナ、300年前のコサック様式木造教会がドローン攻撃で焼失
ウクライナ南部ヘルソン州ベリスラフにある18世紀建立の木造教会が、現地時間の8月1〜2日の週末、ロシア軍のドローン攻撃を受けて焼失した。ウクライナ当局は、この教会が18世紀のコサック様式木造建築として国内に現存していた最後の一棟だったと説明している。焼け落ちた建物の写真は、ヘルソン州の行政当局から公開されている。
焼失したのは「聖ヴヴェデンスカ(生神女進堂)教会」(Holy Vvedenska / Presentation Church)。ベリスラフ市軍政部トップのオレクサンドル・アルチェフ氏は現地時間の8月3日朝、フェイスブックへの投稿で、この教会が「ほぼ3世紀にわたり、われわれの街の歴史の一部であり続けた、国家的に重要な唯一無二の建築記念物だった」と述べた。同氏によれば、教会は1725年にザポリージャ・コサックのペレヴォロチナ要塞から得たオーク材を使い、釘を一本も使わずに建てられ、1784年にドニプロ川を経てベリスラフに移築されたという。
地元ニュースサイト「Most」の報道によれば、この教会は現在もウクライナ正教会(Ukrainian Orthodox Church、歴史的にロシア正教会モスクワ総主教庁と結びついてきた組織)の管轄下にあった。ウクライナには2018年、モスクワの教会権威からの完全な独立を掲げて設立された別組織「ウクライナ独立正教会」(Orthodox Church of Ukraine)も存在し、二つの正教会が並立している。
何が起きたのか
攻撃を受けたベリスラフは、ヘルソン州の中でも歴史ある集落だ。同州はクリミアへの経路上にあり、戦略的に重要な位置を占める。ロシアは2022年の全面侵攻開始時にヘルソン州の大半を占領したが、ベリスラフを含む一部地域はその後ウクライナ側に解放されている。ただし現在も絶え間ない砲撃・攻撃にさらされており、地域の文化財や宗教施設は破壊の危機に直面し続けている。
リビウを拠点とする文化財保護団体「スケイロン」(Skeiron)は、失われた教会をデジタル復元するため、教会の写真提供をフェイスブックやインスタグラムで呼びかけている。釘を使わない伝統的な木組みで建てられた建物は、焼失すれば同じ工法・同じ古材で再建することはほぼ不可能とされ、記録が唯一の手がかりとなる。
背景
コサックとは、16〜18世紀にかけてドニプロ川流域などで自治的な軍事共同体を築いた集団を指すとされ、ウクライナの国民的アイデンティティの重要な源泉の一つとされる。ザポリージャ・コサックはその代表的な勢力で、要塞や独自の木造建築文化を残した。今回焼失した教会は、その建築様式を伝える現存唯一の18世紀建築だったとウクライナ当局は説明しており、単なる一つの宗教施設の喪失にとどまらない意味を持つ。
ウクライナで文化財が失われたのは今回が初めてではない。今年4月にもハルキウ州で、有力コサック家系の邸宅だった歴史的建造物「ドンツィフ・ザハルジェフスキー邸」がロシア軍のドローン攻撃で破壊されている。戦争が長期化する中で、こうした代替のきかない木造建築や史跡が、前線や砲撃の及ぶ範囲に点在し続けていることがうかがえる。
日本にとっての意味
今回失われた教会は、釘を一本も使わない木組みで建てられていたとされる。日本の伝統的な木造建築にも通じる工法であり、こうした建物は一度焼失すると、同じ木材・同じ技術で復元することはほぼ不可能とされる。戦争の被害というと死傷者数や軍事的な損害で語られがちだが、木造建築のように材料と職人技が一体になった文化財は、記録が残っていなければ永久に失われる。スケイロンのような団体が写真提供を呼びかけているのも、事前の記録なしには復元の手がかりすら残らないためだ。日本国内でも文化財の3Dスキャンやデジタルアーカイブが進められているが、その意義は平時には実感しにくい。ウクライナでの出来事は、そうした記録の蓄積が、いざという時に文化財の記憶を残す唯一の手段になり得ることを示している。