重症COVID、体内に潜む別ウイルスを再び活性化か 米研究
米国の研究チームが、重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかった患者の体内で、普段はおとなしくしている複数のウイルスが再び活性化していたとする分析結果を発表した。因果関係を証明したものではないが、ロングCOVID(long COVID、いわゆるコロナ後遺症)や死亡リスクとの関連がみられたとしている。
何が起きたのか
テキサス大学オースティン校などの研究チームが現地時間の8月5日、学術誌ネイチャーに観察研究の結果を発表した。分析には、2020年5月から2021年3月にかけて米国内20の病院に入院した、ワクチン未接種の患者1,154人分のデータを使った。鼻の綿棒検体や血液細胞など約20万件の検体から10億件を超えるデータを集め、抗体の量ではなく、実際に増殖しているウイルスのRNAを直接測定した点が特徴だという。人は通常、8〜12種類のウイルスを体内に持ちながら症状もなく過ごしているとされるが、この研究では入院後40日以内に11種類のウイルスの再活性化が確認された。最も多かったのは単純ヘルペスウイルス1型と、アネロウイルス(Anelloviridae、ヒトの約9割が持つとされるウイルスの一群で、詳しい性質はまだよく分かっていない)で、EBウイルス(Epstein-Barr virus、EBV)やサイトメガロウイルス(cytomegalovirus、CMV)、エンテロウイルスも一定数みられた。EBVは入院時点で患者の24%からすでに検出され、その後徐々に減っていったのに対し、アネロウイルスは入院後20日ごろまで検出率が高いまま推移した。重症患者に限ると、気道にCMVが検出された人や鼻腔にEBVが検出された人は、1年以内に死亡する割合が高かった。CMVはほかにも、気胸(肺がしぼんでしまう状態)や菌血症(血液中に細菌が入り込むこと)、肺の血管の病気、腎臓の合併症、脳卒中、ショックとの関連がみられた。年齢が高いほど血液中のアネロウイルスとの関連が強く、ヒスパニック系ではEBVとCMVとの関連が強かった一方、性別による差はみられなかったという。またアネロウイルスの再活性化は、ロングCOVIDや長期的な身体機能の低下と関連していたと報告されている。
背景
EBVやCMV、単純ヘルペスウイルスといったヘルペス科のウイルスは、子どもの頃などに一度感染すると体内から完全には排除されず、生涯にわたり潜伏し続けることが知られている。通常は免疫の働きで抑え込まれているが、強いストレスやホルモンの乱れ、睡眠不足、手術、重い病気などをきっかけに再び活動を始めることがあるとされる。EBVについては、まれに自己免疫疾患(免疫が誤って自分の体を攻撃してしまう病気)や一部のがんとの関連が指摘されることもある。今回、研究チームが注目したのは、ウイルスの再活性化が起きた仕組みだ。これまでは、重症患者の免疫が弱っている(免疫抑制の状態にある)ためにウイルスが再活性化すると考えられてきた。しかし今回のデータでは、EBVやCMVを含むヘルペス科のウイルスの再活性化は、免疫の抑制そのものとは結びつかず、むしろ全身に広がる炎症の強さと関連していた。研究チームは、この結果は「免疫が弱っているからウイルスが目覚める」という従来の見立てを問い直すもので、ウイルスの再活性化はこれまで考えられていたより幅広い状況で起こりうる現象かもしれないと述べている。ただし論文自体も、今回の結果だけでは再活性化と重症化・後遺症の間にはっきりした因果関係や仕組みを証明したわけではないと断っており、あくまで両者に関連がみられたという段階にとどまる点には注意が必要だ。なお、今回の対象者はワクチン接種前の2020〜2021年に重症化して入院した患者に限られ、軽症例や、ワクチン接種後の感染にそのまま当てはまるとは限らない。
日本にとっての意味
ロングCOVIDの症状に悩む人や、それを診る医療従事者にとって、今回の研究は症状の背景にある新しい手がかりになりうる。倦怠感や集中力の低下といったロングCOVIDの症状の一部には、体内に潜んでいた別のウイルスの再活性化が関わっている可能性があるという視点は、これまであまり注目されてこなかった経路だ。研究チームは、EBVやCMV、アネロウイルスの検出には、すでに医療現場で使われているPCR検査(ポリメラーゼ連鎖反応法、ウイルスの遺伝子を増幅して検出する検査)の仕組みをそのまま応用できる可能性があるとも指摘している。日本でもPCR検査は新型コロナの検査を通じてすでに広く普及しており、今後こうした再活性化の有無を調べる検査が臨床応用されれば、導入のハードルは比較的低いとみられる。一方で、今回の研究は重症入院患者という限られた集団を対象にしたものであり、軽症で経過した多くの人にそのまま当てはめられるものではない点は、報道を受け止めるうえで踏まえておきたい。米国の研究チームを率いたボストン小児病院のオファー・レビー氏は、病院の発表資料の中で「多くの人はもう新型コロナを問題視しなくなっているが、米国では2025〜2026年の呼吸器感染症シーズンに最大5万人が新型コロナで亡くなり、1,000万人を超える成人がロングCOVIDに苦しんでいるとの推計もある」と述べた。そのうえで、患者がよりよく回復できるよう支援する必要があると訴え、将来別のコロナウイルスによる流行が起きる可能性にも言及している。