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炭素会計の計算方法次第で企業の排出量は半分に見える 論文指摘

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企業が公表する温室効果ガスの排出量が、実際の排出削減ではなく、単に計算方法を変えただけで大きく減って見える場合がある。ドイツのヨーロピアン・スクール・オブ・マネジメント・アンド・テクノロジーの客員講師ラマナ・グディプディ氏らがまとめた論文が、こうした「炭素会計(carbon accounting)」の手法の違いが企業の排出量報告をどれほど揺さぶるかを示した。論文は科学誌ネイチャー・サステナビリティに査読付きの見解論文として掲載された。

何が起きたのか

研究チームは欧州企業401社を対象に、サプライチェーン全体の排出量(スコープ3排出量と呼ばれる、自社の直接排出だけでなくサプライヤーや取引先を含めた排出量)の年ごとの変動を分析した。その結果、変動の62.5%は事業内容や業界、排出の効率性の変化では説明できないことがわかった。一方、自社の直接排出量(スコープ1排出量)の変動は5%程度にとどまり、会計手法による揺れは小さかった。

研究チームはこの問題を示すため、食品・飲料会社を想定した実験も行った。鶏肉、牛乳、卵、小麦という同じ調達リストを用意し、それぞれよく使われる4種類の科学データベースで炭素排出量を試算したところ、あるデータベースでは170万トン、別のデータベースでは350万トンという結果になった。仕入れ先や量はまったく同じであるにもかかわらずだ。理屈のうえでは、ある年にデータベースAを使い、翌年にデータベースDに切り替えるだけで、公表数値を5割以上減らして見せることができてしまう。読者や投資家には、それが実際の排出削減なのか、単なる算定方法の変更なのか区別がつかない。

グディプディ氏はMongabayの取材に対し、「現在の枠組みでは、企業がどの数値を選ぶかによって、気候変動対策の先進企業にも遅れた企業にも見えてしまう」と述べた。さらに「自分が企業の担当者なら、優秀な数学者を雇って『これくらい進歩したように見せたい』と頼めばいい」とも語り、算定方法の選び方次第で印象操作ができてしまう現状に警鐘を鳴らした。

背景

企業の温室効果ガス排出量の報告は、国際的な基準である「GHGプロトコル」などに沿って行われるのが一般的だが、実際の計算に使う排出係数のデータベースや前提条件には複数の選択肢があり、どれを使うかは企業の裁量に委ねられている部分が大きい。特にスコープ3排出量は、自社工場の燃料使用量のように直接測定できるものではなく、購入した原材料や部品の量に、業界平均的な排出係数を掛け合わせて推計することが多い。この係数がデータベースによって異なるため、同じ調達内容でも算出結果に差が出る。

加えて、多くの企業は最終的な排出量の数字だけを公表し、どの手法や前提でその数字を出したのかを詳しく開示していないという。この不透明さが、実際に排出削減が進んでいるのか、単に算定方法を変えただけなのかを外部から見分けにくくしている。論文の著者らは、業界ごとに統一した算定ルールを設け、排出量の変化が実際の対策によるものか算定上のノイズによるものかを数学的な手法で判別する仕組みを導入するよう提案している。

日本にとっての意味

日本でも、大企業を中心にスコープ3排出量の開示が広がりつつあり、有価証券報告書でのサステナビリティ情報開示や、取引先からの排出量データ提供要請が増えている。今回の指摘は、こうした開示の数値が、企業の実際の脱炭素努力をそのまま映しているとは限らないことを示している。ESG投資を行う投資家やIR担当者にとっては、公表された排出削減率を単純に業績評価に用いる前に、どの算定基準やデータベースを使ったのか、年度をまたいで手法を変えていないかを確認する必要があるという実務上の示唆になる。また、サプライチェーンの取引先として排出データの提供を求められる日本企業にとっても、自社が使う排出係数の出典を明確にしておくことが、将来の国際的な会計ルールの統一に備えるうえで重要になりそうだ。