感染症・健康

米ワシントン州の一郡、コロナワクチンで死者4千人超回避か

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米ワシントン州キング郡(シアトルを含む郡)の保健当局の研究者らが、2021年のコロナワクチン接種によって入院1万6千件以上、死亡4千人以上が防がれたとみられるとする推計研究を発表した。医学誌BMC Public Healthに掲載され、感染症専門メディアのCIDRAPが報じた。ワクチンの効果を具体的な数字で示した研究だ。

何が起きたのか

研究チームはキング郡の12歳以上の住民を対象に、2021年2月から9月までの期間について、接種を受けた人と受けていない人でコロナによる入院・死亡の発生率がどれほど違ったかを、自治体が集めた感染状況の記録(サーベイランスデータ)から比較した。この期間は、感染力の強いアルファ株、続いてデルタ株が広がり、同時にワクチン接種が始まったばかりの時期にあたる。

実際にキング郡で記録されたコロナ関連の入院は3,086件、死亡は591件だった。研究チームは、もしワクチン接種がなければ、これに加えてさらに入院16,607件、死亡4,307件が発生していたはずだと推計した。研究者らは論文で「ワクチン接種がなければ、コロナによる入院件数は実際に観測された数の6倍以上、死亡件数は8倍近くに達していただろう」と述べている。

恩恵が最も大きかったのは高齢者だった。65歳以上では、接種によって入院8,314件、死亡3,125件が防がれたと推計され、これは全年齢で防がれたとされる入院の半分、死亡の4分の3近くを占める。2021年9月末時点でキング郡の65歳以上の接種率は95%に達しており、郡全体の人口でみても71%が初回接種を終えていた。これは当時の米国全体の接種率51%を大きく上回る水準だった。

研究の手法上の工夫として、入院した患者のうち、コロナが入院の直接の原因だったケースと、別の病気やけがで入院したものの検査でたまたま陽性が出ただけのケースを区別した点が挙げられる。今回の分析対象となった3,791件の入院のうち638件は後者の「たまたま陽性」だったケースと判定された。研究チームは、コロナ感染の3割程度が無症状とされ、入院の分類に誤りが混じりやすいことを踏まえると、こうした選別によってデータの信頼性が高まると説明している。

背景

この研究は、実際に起きたことと「もしワクチンがなかったら」という仮定の世界を比較する推計モデルという手法を使っている。前提となるのは、接種を受けなかった人が実際にたどった重症化・死亡の率を、接種を受けた人にもそのまま当てはめて計算するという仮定だ。研究チーム自身もこの点を研究の限界として挙げており、マスク着用や人との距離の取り方、体調が悪いときに早めに受診するかどうかといった行動の違いは、この仮定では捉えきれないと述べている。つまり4,307人という数字は、確定した死者数ではなく、一定の前提に基づく推計値として読む必要がある。

それでも研究チームは、この分析の意義を強調している。キング郡のように地域の保健当局が独自に集めた記録を使えば、他の自治体でも同様の手法でワクチンの効果を数値化できるはずだとしている。全米規模の集計では見えにくい、地域ごとの接種状況と実際の被害の関係を可視化した点に、この研究の価値がある。

日本にとっての意味

この研究が示すのは、一つの郡という比較的小さな単位のデータからでも、ワクチンの効果を具体的な数字として取り出せるということだ。日本でも都道府県や市区町村は感染者数や入院・死亡の記録を保有しており、理屈の上では同様の推計を国内の自治体単位で行う余地がある。

また、キング郡で防がれた死亡の4分の3近くが65歳以上に集中していたという結果は、高齢化率が米国より高い日本にとって示唆的だ。同じような接種率の違いが年齢層ごとの被害の差を生む構図だとすれば、高齢者人口の割合が大きい日本では、同水準の接種が行われた場合の効果はさらに大きくなるという見方もできる。ただしこれは今回の研究から直接導かれる結論ではなく、あくまで構造的な類推にとどまる点には注意が必要だ。

さらに、入院した患者のうちコロナが直接の原因ではない「たまたま陽性」のケースを分けて集計したという手法は、「コロナの死者数や入院数は水増しされているのではないか」という、日本でもしばしば聞かれる疑問に応える一つの材料になる。数字をうのみにするのでも切り捨てるのでもなく、どう数えられたのかを確認する視点の大切さを、この研究は示している。