未開業のまま10年以上、ジョージアのコンサートホール解体進む
ジョージアの首都トビリシで、一度も開業しないまま10年以上放置されていたコンサートホール「リケ・コンサートホール(Rike Concert Hall)」の解体作業が進んでいる。地元の報道機関TV Pirveliが公開した映像には、筒のような形をした建物からうろこ状の外装パネルが取り外されていく様子が映っていた。設計したイタリアの建築事務所スタジオ・フクサス(Studio Fuksas)は、解体は「重大な文化的後退」だとして中止を求めている。デザイン誌Dezeenが伝えた。
何が起きたのか
解体は、トビリシ市当局の建築部門が現地時間2026年7月13日に許可を出してから2週間足らずで始まった。Dezeenによると、建物は2025年に建設会社マクロ・コンストラクションズ(Makro Constructions)が取得しており、同社が解体許可を申請した。許可の条件では、建物は12月25日までに取り壊されることになっている。
スタジオ・フクサスはDezeenに声明を寄せ、ジョージア当局に解体の中止と建物の再生をめぐる対話を呼びかけた。「60年を超える設計活動の中で、代替案を話し合う場に一度も招かれないまま自作の解体に直面するのは初めてだ」とし、「トビリシには、未完のプロジェクトを再生と革新、国際的な開放性の象徴に変える機会がまだ残されている」と訴えている。
背景
リケ・コンサートホールは、クラ川沿いのリケ公園に建つ2本の筒を束ねたような鋼とガラスの建物で、566席の音楽劇場と展示ホールからなる。サアカシュヴィリ大統領(当時)の下で、欧米に開かれた国という印象を打ち出す都市改造の一環として計画され、2012年に完成した。Dezeenによると建設には市の資金で約4000万ユーロが投じられたが、同じ2012年の議会選挙で政権が交代すると、前政権の象徴と見なされたこの建物は開業しないまま放置されることになった。
その後、建物は2022年に約1000万ユーロで民間に売却され、2025年に現在の所有者へ渡った。コバヒゼ首相が2025年に「この醜さは美しい首都にふさわしくない」と述べるなど、政府側は取り壊しを公然と後押ししてきた。完成した建物が政権交代とともに宙に浮き、公費で建てた施設が一度も使われないまま民間の手で壊される。今回の解体は、建築が政治の記念碑として扱われることの危うさを示す事例といえる。
日本にとっての意味
国際的な建築家を起用した大型プロジェクトが、政治判断で覆る。この構図は日本も経験している。2015年、新国立競技場をめぐりザハ・ハディド氏の当選案は、総工費が約2520億円に膨らんだことへの批判を受けて白紙撤回された。あちらは着工前の撤回、トビリシは完成後の解体という違いはあるが、シンボルとして始まった建築計画が世論や政権の判断で終わりを迎える点は共通している。
もう一つの教訓は、使われない建物の後始末にも金がかかるという点だ。日本では利用の振るわない公共施設が「ハコモノ」と呼ばれて久しく、総務省の要請で全国の自治体が公共施設等総合管理計画を作り、老朽施設の統廃合や解体を進めている段階にある。トビリシの事例は、建設費だけでなく、維持費も解体費も含めた建物の一生を最初から見通しておかなければ、都市に14年間閉ざされたままの巨大な空き家が残るという実例であり、施設の更新期を迎えた日本の自治体にとって対岸の話ではない。